写真●NHK総合企画室[経営計画]担当局長の土屋円氏(左)、総合企画室[経営計画]統括担当部長の黒田徹氏
写真●NHK総合企画室[経営計画]担当局長の土屋円氏(左)、総合企画室[経営計画]統括担当部長の黒田徹氏
[画像のクリックで拡大表示]

 さまざまな噂や批判の声が絶えない限定受信システム(CAS)であるB-CASカードの運営管理を行うビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)。その現状についてはすでに掲載した通り(関連記事)だが,同社はどのような経緯の中で生まれ,今に至っているのか。筆頭株主であり,また年間20億円程度を負担する主要取引先でもある日本放送協会(NHK)の総合企画室[経営計画]担当局長である土屋円氏,総合企画室[経営計画]統括担当部長である黒田徹氏に聞いた。

B-CAS社設立の経緯について教えてください。

土屋氏 2000年2月の会社設立以前から,CASの仕組みをどう活用していくのかの議論がなされてきました。その結果,NHKでは衛星放送契約に関するメッセージ表示を,民放キー局各社は将来の有料放送化をにらんで設立に携わることになりました。

 NHKが筆頭株主となったのは,メッセージ表示機能がすべてのBSデジタル受信機を対象とした業務であることが要因です。有料放送事業者(WOWOW,スターチャンネルBS)の限定受信は受信機購入者の一部しか利用せず,また民放各社は将来的な担保という色合いであったため,利用のグレードはNHKが最も高かったということです。

民放各社の将来的担保とは何ですか。

土屋氏 新たな無料放送モデルであるBSデジタル放送の開始が,従来型の地上波放送ビジネスモデルを脅かす可能性があることを考慮し,CAS方式を用いた有料放送サービスの実施を視野に入れた,と聞いています。結果的にBSデジタル放送はそこまでの成長を見せていませんが,当時は脅威とみる向きもあったということです。

なぜ「株式会社」としたのですか。

土屋氏 歴史的な帰結です。主要業務は有料放送の限定受信でしたが,BSデジタル受信機普及に対する有料放送契約者数は5分の1程度あるかどうか,と見られていました。開始当初の普及状況を考えると絶対数からして少なく,監督官庁が参加・認可して責任を持つほどの公益性はありませんでした。また,組合組織とするには取扱額が大きく,コストセンター的な役割として株式会社の位置づけとなりました。

黒田氏 当初は「CASを使った事業を展開する」という感覚です。NHK,民放,受信機メーカーの3者で株式会社を運営する形にするしかありませんでした。運営上はコストセンター的に経費を抑えることを念頭におきました。

既に普及していた200万台の受信機があり他の選択肢はなかった

2004年から地上デジタル放送を含むデジタル放送にコピー制御が導入されましたが,ここでB-CASを活用することを決めた理由は何ですか。

土屋氏 BSデジタル放送開局特別番組のデジタル海賊版販売で逮捕者が出たことをきっかけに,早い段階からコピー制御の必要性が議論されました。2003年12月の地上デジタル放送開始を前に,地上デジタル放送においても抑止手段としてのコピー制御をやらざるを得ないと。その方法として放送信号を暗号化して何らかの鍵で解く,という技術的ルーチンができあがっていました。そして,すでに200万台程度普及していたBSデジタル受信機を含めてデジタル放送のコピー制御システムを適応するためのベストな方策として,B-CASカードを鍵として利用することになったのです。

B-CAS利用以外に選択の余地はなかったのですか。

土屋氏 すでに出荷された受信機をコピー制御の対象外とするか,または鍵を持たない受信機として利用をやめてもらうか,あるいはコピー制御自体を投げ出すかなど,選択肢はありました。その中でのベストな判断であったと考えています。

B-CASカードにはもともと,デジタル放送のスクランブルを解く暗号解除の鍵が埋め込まれていたということですか。

黒田氏 デジタル放送のコピー制御の検討はBSデジタル放送開始以後であり,よってカード自体も当初からデジタル放送の暗号解除機能を持っていたわけではありません。放送波でのソフトダウンロードの形で,視聴者が不便を感じることなくカードの機能を更新して暗号解除ができるようにしました。

暗号化以外のコンテンツ保護策は検討されなかったのですか。

黒田氏 実施にあたって公募は行いましたが,200万台の販売済受信機を対応させる手立てはありませんでした。

コンテンツ保護実施にはハリウッドの圧力があったとも言われていますが。

土屋氏 NHKには「ハイビジョン画質の作品をコピーフリーで提供することはできない」という話はありましたが,圧力というものではありません。きっかけは,あくまで開局特番時の海賊版販売で逮捕者が出たことによるものです。