>>前編
ユーザー企業のシステム部門は必要性が薄れてしまうのでしょうか。
そんなことはありません。ただ形は変わるでしょう。
これまで、システム部門は企業内でアグリゲータの役割を果たしていたと思うんです。現場の要求を聞いて、提供側と折衝しながら課題をとらえて、と。システム部門がこうした役割を果たす前提にあったのは、業務効率化、あるいは生産性向上のためにシステムを構築していた時代です。
ところが今はICT(情報通信技術)が前提になってビジネスモデルを作っている。明らかにビジネスが主体になっています。
だからシステム部門は経営企画の一部となるべきだと考えます。アグリゲータがいたとしても、主体は自社の戦略ですから、顧客企業以外に決められません。
一方で事業部門のITリテラシを高めることも重要になってきます。システム部門のもう一つの役割は、事業部門に入っていくことです。
システム部門だけでなく、ユーザー企業の経営や業務部門も意識を変えなければいけないのでは。
サービスはタダではないということを意識してほしいですね。コンサルティングやシステム構築のサービスは、提供側の能力とモチベーションで品質が大きく変わる。
提供側の経営者は社員の能力とモチベーションをいかに高く維持するかを本気で考えてないと、サービス品質が落ちるんですね。買う側もそのことを理解すべきだと思っています。
モチベーションは買い手が高める
つい最近まで、日本人はサービスを買った経験がなかった。例えば「サービスしておきます」っていいますよね。これはつまりタダという意味。
この感覚が残っているので、日本人は今も物を買うのとサービスを買うのを一緒にしているんですよ。だからシステム構築プロジェクトの交渉のときに企業によっては購買部が窓口になる。
本来はサービスを買う側は、提供側のモチベーションを上げる買い方をするべきです。サービスを買うときは、提供側のモチベーションを、少なくとも買う側が変えられます。どうせ買うなら提供側のモチベーションを高めるような買い方をすべきです。
提供側が100円と言ってきたら、110円で買うべきなんです。すると、200円分の価値が手に入る。人間のモチベーションなんてそんなものですよ。「この人のために」と思った瞬間に、まったく違ったパフォーマンスを出すんです。だから購買部を交渉の窓口にもってくるなんて、もってのほかです。
会社を立ち上げるには相当なエネルギーが必要です。倉重さんをそこまで駆り立てたものは何ですか。
コラボレーションをもっと広めたいという一念です。仕事も職場も人生も楽しくなかったら仕方ないと本当に思うんですよ。だから人と人が一緒になって、価値を創造していくという、ビジネスの在り方を当たり前にできたらいいと考えています。
一旗揚げようとか、そういう気はもうないです。僕は年齢からいっても、もはや揚げなくてもいい(笑)。
今はあまり楽しくないと思いませんか。IT業界は本来、知的産業なんですよ。だから人月から脱却しなければならないし、価値創造もしなければいけない。でも、この業界はコストを減らすことばかり過去20年やってきた。ITの世界は今、ネゴシエーションが一番きつくなっている。
IT業界は学生からも人気がないですよね。少なくても自分が育ってきた業界が学生から嫌われるのは悲しい。こうした状況を何とかしたいと思ったわけです。コラボレーションが、世の中に定着することに貢献できたらという、本当にその思いだけです。
倉重 英樹(くらしげ・ひでき)氏
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年6月20日)