写真●米ガートナーリサーチ バイスプレジデント ジーン・ファイファー氏
写真●米ガートナーリサーチ バイスプレジデント ジーン・ファイファー氏
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データセンターにあるコンピュータ資源を、ユーザーがインターネット経由で利用するクラウドコンピューティング。個人での利用や、企業の情報系システムでの利用が確実に増えている一方で、企業の基幹システムにクラウドを利用している事例はまだ聞かない。「基幹システムでのクラウド利用」はどのような状況なのか。米ガートナーのアナリストに聞いた。(聞き手は吉田洋平、玉置亮太=日経コンピュータ)

現在、基幹システムにクラウドコンピューティングを利用している企業はどの程度あるのか。

 まだミッションクリティカルな企業システムを扱う段階には入っていない、というのが現状だ。基幹システムにクラウドを利用するには解決しなければならない課題が多い。グーグルを例に挙げると、システムの透明性が低い、SOAに基づくサービス間連携が難しい、などだ。だが、今後は急速にこの状況が変わっていくだろう。基幹システムにクラウドを使う企業は徐々に現れるはずだ。

 IBMやSAP、オラクル、マイクロソフトなどの大手ベンダーは、クラウドの経験がまだ少ない。だが企業がクラウドを利用する場合、信頼性や可用性が非常に重要になる。彼ら企業情報システムの「メガベンダー」は、今までもミッションクリティカルなシステム提供してきたという点で、すでに顧客との信頼関係を築いている。これはクラウドを広めていくうえでも非常に有効に作用するだろう。

 一方で、アマゾン、グーグル、セールスフォース・ドットコムなどは早い段階からクラウドに取り組んでおり、クラウドの運営に関して多くのノウハウを持っている。だが、ミッションクリティカルな企業システムを扱った経験はない。両者とも優れた部分と足りない部分がある。お互いから学ぶべきことは多いだろう。

 企業は現在、情報系システムの一部でクラウドを利用するなど、ミッションクリティカルではない部分でクラウドの良さを認識し始めている。これは現実的なアプローチだ。信頼性はどうか、サポートをどこまでしてくれるかといったことが確かめられるからだ。

クラウドとオンプレミス(据え置き型)のシステムはどのように使い分けるべきか。

 すべてをクラウドに移行するのは現実的ではない。今後もオンプレミスのシステムの重要性は変わらない。例えば、人事情報や製品情報など高いセキュリティを求めるデータはオンプレミスのシステムに置くべきだ。高いパフォーマンスを要求する分野や、競合他社と差別化を図りたい分野なども同様。クラウドで利用すべきなのは、企業ごとの違いがでない汎用化したシステムだ。

 企業がクラウドを使う場合の大きな課題は、業務プロセスとの連携の部分だ。トランザクション処理を例に挙げると、社内のシステムと連携しながら、障害が発生した際にデータを更新前の状態に戻すロールバックを実施したり、データの伝達が確実に行われたかを確認したりといった処理が必要になる。そういった部分での信頼性はまだ低い。セールスフォース・ドットコムのアプリケーション構築基盤「Force.com」は、複数のプロセスをつなぐという点で業界最高レベルだが、まだ完全とはいえない。

 かつて、Webサービスを連携するためのプロトコルとして、プラットフォームに依存しない「SOAP」が登場した。当初はトランザクション処理ができないなどの課題があったが、標準化や仕様策定が進んでいったことで、複数のシステムをスムーズに接続できるようになり、トランザクション処理にも対応するよう発展していった。

 だがクラウドでのサービス連携においては、より簡易に利用できることを理由に「REST」が主流になっている。RESTを発展させるため、SOAPが辿った発展のサイクルをRESTでも繰り返さなくてはならない。この部分では、Webサービスの進化はスローダウンしていると認めざるを得ない。だが、RESTを使ったビジネスプロセス連携の信頼性もじきに高まってくるはずだ。