>>前編
新しい取り組みにはどのようなものがあるのか。
例えば据え付けではなく取り外して持ち歩けるPND(personal navigation device)やデジタル・フォトフレームなどが次々にネットワークにつながっていく。こうした領域は強化していきたい。ただし「我々の付加価値は何か」をよく考えないと,中抜きになる恐れがある。
今後は良い意味でサービスやハードウエアの多様性が増すだろう。それに対応するため,4月に「アプライアンス事業開発本部」を作った。ISP事業,ネット広告であるブロードバンドメディア事業,プラットフォーム事業を横串で貫くような新しいサービスの開発と,新しい機器への対応を進める。
トラフィック増に対しては,ルーターやサーバーを増強する必要がある。サーバーでは,電力や環境への配慮が求められているので,全体的に仮想化を進めて効率的なデータ・センターを作ることを含め,基幹ネットワークを刷新していく。
NGNはインターネットが抱える課題を乗り越えられるだろうか。
NGNには大いに期待している。NTTが「NGNではインターネットの良さを取り入れるだけでなく,通信の本質に立ち返った新しいサービスをきちんとやろう」と言い出したのが一番大事なポイントだ。
ここでは,たくさんのサービスを早く世に出すことが重要になる。そのためにはNTTだけで考えていてはダメ。パートナを巻き込んでサービスを提供する,あるいはユーザーがCGC/CGM(consumer generated content/media)の視点でサービスを使うことを踏まえ,そのための仕掛け,仕組みを作るというやり方があっていい。
様々なサービスをパートナ企業が提供する際に要となるのはSDP(service delivery platform)だ。NTTが国際標準などを見ながらSDPを考えていくのは当然だと思うが,NGNのトライアルではインタフェース条件などがあまり明確にならなかった。NTTはSNI(service network interface)を公開したが,それよりも大事なのはWeb APIでNGNと(パートナのサービス・アプリケーションを)つなげるようにすることだ。きちんとしたアプリケーション・インターフェース,場合によってはSDPの下のレイヤーでもつなぎ合えるのが理想だろう。
昨年のトライアルで我々は高精細の映像配信を試したが,インタフェースの機能最適化という視点に沿った切り分けがまだできていない部分があると思った。映像コンテンツが流れるルートとSIPの制御プロトコルが流れるルートが一緒になっていたが,本来は分けた方が良い。
NECグループでの立ち位置は。
メーカーとしてのNECは,通信事業者へのSIP(session initiation protocol)サーバーの提供を筆頭に,インフラ側で使うものづくりのメーカーという役割がある。当社はプラットフォーム提供からサービスまでが領域で,しかもコンシューマと直に接するところを受け持つ。長年培ってきたセキュリティを含めた認証,課金,決済,会員管理,携帯電話への対応といった要素が強みになる。
映像関連サービスは昔から力を入れてきたし,充実している自負がある。映像配信サイトの「BIGLOBEストリーム」には,1000万のユーザーがいる。ただプレゼンスが発揮できていないところがあるので,今年はプロモーションに注力する。CGC/CGM,動画共有という世間の流れに沿ったプロモーションをしていきたい。
放送局に対する配信プラットフォームの提供にも,早くから取り組んでいる。仮想化技術を駆使してニーズに即応してリソースを増減できる仕組みを,複数のテレビ局に提供している。夕方にオンエアしたアニメ番組を数時間後には当社のネット経由で見られるサービスなども始めている。
ECの基盤などは,NECが持っているリソースとうまくコラボレーションした方が良いという話になる。NECの研究所が持つ技術も活用できるだろう。アニメの番組とNEC研究所が開発した音声合成技術を,我々がうまく組み合わせてサービスするという例もある。
足りないものは協業により提供していく。例えば米アドビシステムズと文書管理のための「BIGLOBEドキュメントコントロールサービス」を提供している。このサービスは夏ころに強化する計画だ。
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年6月5日)
代表取締役執行役員社長
飯塚 久夫(いいづか・ひさお)氏