リーマン・ブラザーズ証券の津坂氏は,iPhoneの国内の潜在需要は300万台とみるが,アップルからそれだけの供給量があるかどうかに注目している。ユーザーのすそ野を広げるために,ソフトバンクモバイルが安価な料金プランを用意する可能性もあるとする。

(聞き手は松元 英樹=日経コミュニケーション



iPhoneの国内価格は市場にどう受け止められるか。

リーマン・ブラザーズ証券 株式調査部 津坂徹郎 ヴァイス プレジデント,アナリスト
リーマン・ブラザーズ証券 株式調査部 津坂徹郎 ヴァイス プレジデント,アナリスト
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 他社の携帯電話が5万円程度で売られている中で,2万3040円という実質価格は安いと感じる。しかし,7280円という通信料はユーザー層を狭めるのではないか。月額1万円近くを支払うユーザーは,市場の中で25~30%程度だとみている。

 国内には約1億台の稼働端末があり,3割が1万円を払う上位ユーザーだとすると,iPhoneのターゲット市場は3000万台ということになる。そのうち10%程度がiPhoneに興味を持ってもおかしくない。iPhoneのライフタイムが2~3年程度として,累計の出荷台数は200万~300万台になるだろう。

 問題は,アップルから実際にそれだけの供給があるかということ。リーマン・ブラザーズでは,iPhoneの世界出荷台数を1年間で約2000万台と予測している。この2000万台を巡って,各国の取り合いになることが予想される。iTunesやiPodが,欧米で盛んに使われていることを考えると,日本の市場にどれだけ入ってくるのかは不透明だ。もし供給量が豊富なら,年間150万台程度まで販売台数が伸びる可能性はある。

調査会社の米アイサプライはiPhoneの原価を173ドルと見積もっている。

 部材の金額はそんなものだろう。ただ,この価格に開発費は入っていない。携帯電話で一番大きなコストは,材料費ではなく開発費だ。NTTドコモ向けの端末の開発費は1台当たり100億円と言われているが,ここには部材費以外のソフトウエア開発費も含まれている。iPhoneが全世界で1億台売れるとすれば,1台当たりの開発費自体はごく薄くなる。

今回,アップルが端末価格を大幅に引き下げた狙いは。

 販売台数を増やしたいからだ。今までの事業モデルがあまりにもおかしすぎた。当初の500ドルという端末価格は高すぎる。さらに,通信事業者の収入から何%かを取るというのは,要求しすぎだった。通信料からの収入が入らなくても,端末が爆発的に売れたほうがいいというアップルの計算なのだろう。

アイサプライは,事業者への卸価格が500ドルと予測している。この価格についてはどうみるか。

 妥当な線ではないか。商品力があるから,無理に安くする必要はない。開発費,流通,ブランディングの費用などもあるが,ある台数で損益分岐点を越えれば,それ以降はかなり儲かるだろう。累計で数千万台が売れた米モトローラの端末「RAZR」がそうだった。徐々に値段を下げながら売り続け,十分に利益が確保できていた。

ソフトバンクの販売手法は儲かるといえるのか。

 iPhoneの事業モデルは従来とまったく変わらない。端末メーカーから5万~6万円で仕入れて,7万円程度の値付けをして,新スーパーボーナスで2万3040円まで値引いている。これは,ソフトバンクが扱っている従来の携帯電話と同じ販売手法だ。新スーパーボーナスのような特別割引の方法がない他社よりも,ソフトバンクはiPhoneを導入しやすかったはずだ。結果として,ほかのメーカーの反発も買わなかっただろう。

 パケットの利用料が多いのでデータ料金を定額の5985円にしている。違いはそれだけだ。商品力があるので,定額の通信料で思いっきり儲けたい。途中解約する場合は残りの料金を払わないといけないのだから,“取りっぱぐれ”もない。事業者なら当然の考え方だ。将来的には,一般的なユーザー層を取り込むため,もう一段安い料金プランを追加する可能性もあるだろう。

アプリケーション流通のプラットフォーム「App Store」の可能性をどう見るか。

 こういう事業モデルは台数に依存する。端末の流通数が限られる開発ベンダーのうま味はない。魅力的なアプリケーションも提供されない。iモードでも,対応端末が増えるに伴い,ゲームなどのアプリが増えてきた。

 やっていることは面白いが,日本向けのアプリがたくさん出てくるとは考えにくい。日本では年間100万台にすぎない。英語圏であれば,共通のアプリケーションを配信できるが,地域や言語によってビジネスモデルは変わり,市場規模が限られる。日本向けに特化したアプリを作る人は少ないだろう。