中国の通信機器ベンダーであるファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)は,グローバルの通信機器市場において急成長を続けている。スウェーデンのエリクソンやフィンランドのノキアシーメンスネットワークスといった大手ベンダーと堂々と渡り合う。モバイルから固定までエンド・ツー・エンドのコスト・メリットに優れたラインアップをそろえ,世界の通信事業者に売り込んでいる。日本でもイー・モバイルが基地局や端末を採用した。同社が目指す今後の方向性について,日本法人である華為技術日本の閻力大 代表取締役社長に話を聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション



ファーウェイのこれまでの歩みを教えてほしい。

ファーウェイ・テクノロジーズ日本法人(華為技術日本)代表取締役社長 華為東アジア総裁 閻力大氏
ファーウェイ・テクノロジーズ日本法人(華為技術日本)代表取締役社長 華為東アジア総裁 閻力大氏
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 ファーウェイは1988年の設立から20年が過ぎ,2007年12月には従業員数が7万人に増えている。売上高も急成長しており,2007年は約160億米ドル(約1兆7000億円)に達した。そのうちの72%が,海外市場での売り上げだ。

 モバイルから固定通信までエンド・ツー・エンドのソリューションを提供できる製品を用意している。ワイヤレス製品としては,HSPAやW-CDMA,LTE,CDMA2000,GSM,WiMAXなどの基地局設備・端末,ソフトスイッチやNGN関連のコア・ネットワーク製品,ルーターや光伝送装置などのネットワーク機器,これらのネットワーク上で利用するアプリケーションなども開発している。これらの製品は,既に世界の主要通信事業者に納入した実績を持つ。例えば英BTやテレコム・イタリア,ドイツテレコム,オランダKPNといった事業者が,ファーウェイの製品を利用中だ。

 ファーウェイはターゲット市場を段階的に拡大することで,売り上げを伸ばしてきた。まずは中国国内からスタートし,次に海外の発展途上国に進出した。2000年からは欧州市場に参入し,前述のような実績を残している。今後の長期的な戦略としては,日本と米国の市場を拡大することを考えている。

日本市場への取り組みは。

 ファーウェイの日本法人は2005年11月に設立した。実はその前の2002年から日本にオフィスを置き,市場の需要などを調査していた。その成果もあり,日本法人の開設直後である2006年に,イー・モバイルから基地局の受注を受けた。現在では,3000局以上の基地局設備をイー・モバイルに提供したほか,最大7.2Mビット/秒のデータ通信端末なども納入している。

 日本法人には約80人の従業員がおり,そのうちの半数は技術サポートのエンジニアだ。約20人のエンジニアが日本人であり,需要に応じて日本人のエンジニアを採用していこうと考えている。

日本市場をどのようにとらえているのか。

 品質に対する要求が高く,独自の機能追加が求められるなど,かなり特色のある市場と見ている。我々は短期的には日本市場において売り上げを追求していない。高い品質が求められることの市場に受け入れられることで,ファーウェイのブランドを世界にアピールしたいと考えている。

 日本市場への参入については,海外ベンダーとして圧力を感じる部分もあるが,かつてと比べると自由な競争の方向へ向かっていると思う。例えばモバイル分野では,多くの日本の事業者がファーウェイの製品に対して興味を持っている。

ファーウェイの戦略として最も力を入れている部分は何か。

 研究開発へ力を入れることだ。全従業員の48%が研究開発に携わっているほか,毎年の売上高の10%以上を研究開発費に投資し,製品の競争力を上げることに注力している。今後は特に,IPをベースにした固定とモバイルの製品に力を入れていく。

競合ベンダーも研究開発に多大な投資をしている。こうした企業と比べたファーウェイの強みは何か。

 一つは通信事業者の要求を真摯に聞き,スピーディーに製品やソリューションに反映できる点だろう。人件費の安い中国に研究開発拠点を置くことでそれを可能にしている。中国の人件費は欧州や日本の1/4以下。同じコストを使ってファーウェイは多くのエンジニアを雇用できる。これによって異なる通信事業者の様々な要求に対して,迅速に応えられる体制を整えている。

 さらに言えばファーウェイのカルチャーとして,社員が自分の事業として猛烈に働くことが挙げられる。このような従業員の仕事に対する熱心さもプラスに働いているだろう。

海外市場で売り上げをここまで伸ばせた理由は何と考えているのか。

 通信事業者の要求を聞いて,品質のよい製品を提供できたからだろう。さらには通信事業者の運用コストを削減できるような製品・サービスを用意したことも,海外市場で受け入れられた理由だと考える。

 イー・モバイルが採用した基地局設備を例に取ると,IPを使った伝送路を利用できる機器にすることで,ATMを使うような通常の機器よりも運用コストを抑えられた。また基地局設備のサイズも通常の機器と比べてコンパクトにしたため,設営費も削減できた。

通信事業者からサービス運用を請け負うマネージド・サービスに注力するベンダーも現れている。

 これはとても重要な傾向と見ている。この分野ではエリクソンが最も先行しており,ビジネスの転換に成功している。ファーウェイとしても今後マネージド・サービスに注力し,機器やソリューションの販売だけではなく総合的なサービスを提供していきたい。世界市場において既にいくつか実績もある。