プラットフォームとして見たiPhoneの魅力とは?
そもそもどうして「iPhone」向けにアプリケーションを開発しようと思ったのですか?
iPhoneやiPod touchというデバイスが持つ魅力に惹かれたからです。
私は学生時代にMP3ファイルを使うパソコン向けDJソフトの「MP3-J」を開発しています。しかし当時は,MP3-Jに対する否定的な見方もありました。
MP3-Jのような「PC-DJソフト」の最大の弱点は,それまでアナログ・ターンテーブルで行っていた操作を,マウス操作でしなければならなかったことです。その操作が(ターンテーブルを使うのと比べて)格好悪いので,評判が悪かったのです。
DJの重要な要素として「パフォーマンス」があります。家で曲をミックスする人がマウス操作で曲を繋ぐのはいいかもしれませんが,人前でマウスを操作するのはどうも華がない。そのうち,海外製のPC-DJソフトが日本に輸入され,(ターンテーブルを模した)パソコン用のDJコントローラが登場したので,PCでDJをやる人が増えました。つまり,インターフェースの改善こそが,PC-DJ普及のきっかけだった訳です。
そう考えると,iPhoneにタッチパネルがついていることは重要だと感じました。パソコンでできなかったことが,iPhoneで可能になることもあるからです。
iPhoneでなければできないこととは?
例えばiPhoneには,加速度センサーがついています。そこでIPJでは,iPhoneを振り回すと,サンプリングされた音声が流れるようになっています。DJのパフォーマンスを音楽と融合できるようになったわけです。
DJというのはもともと,レコード・プレイヤーを面白く使ってみよう,という発想から生まれた文化です。新しいデバイスや,デバイスの新しい使い方によって,DJという文化は変わっていくはずですし,我々もそうありたいと思っています。
販路としてはAppleの「App Store」を使うわけですね。
実は,iPhone向けのDJソフトを開発する前に,(携帯ゲーム機の)「Nintendo DS」向けにDJソフトを開発することも検討していました。ちょうど,コルグ(KORG)の(シンセサイザー)音源をNintendo DSで再現した「KORG DS-10」が発表された時期で,「面白いな」と思っていたのです。
しかし,メディアとしてROMカードリッジを採用するNintendo DS市場に,我々のようなベンチャー企業が参入するのは,非常に難しいことが分かりました。ある程度の企業規模が無ければ,ゲームショップといった販路の開発もできないからです。
それに対してiPhoneであれば,「App Store」経由で,世界中でソフトウエアを販売できます。またNintendo DSほど,ゲーム会社が参入している訳ではありません。そこで,iPhone向けのソフト開発を決めたわけです。
今回初めて,Appleプラットフォーム向けの開発に挑戦したそうですが,難しい部分はありませんでしたか?
iPhone向けの開発言語は「Objective-C」ですが,その直前の開発には「C#」を,その前は「C++」を使っていたので,特に違和感はありませんでした。
むしろプログラミング言語の使いやすさは,開発環境に依存すると思います。C#が使いやすいのは「Visual Studio」という開発ツールがあるからです。同じようにObjective-Cに苦労しなかったのは,「iPhone SDK」の開発環境が整備されていたからです。
サンフランシスコでの路上パフォーマンスの手応えはどうでしたか?
WWDC会場のMoscone Centerの脇でパフォーマンスをしていたところ,たまたまあるダンサーと知り合いになれました。彼の彼女が日本人だったので,彼らを通じて地元の有名なダンサーも紹介して貰えたので,翌日からは複数のダンサーも交えたパフォーマンスが実現しました。
私たちがサンフランシスコでデモを行った「初号機」は,そのままサンフランシスコの彼らに預けてきました。きっと彼らが今も,サンフランシスコの路上やクラブで,IPJを使ったパフォーマンスをしてくれているのではないかと思っています。
ニューフォレスターではApp Storeがオープンし次第,「IPJ」の販売を始める予定。価格は1台当たり49ドルを予定し,まずは英語版を発売する。