7月11日に発売となるiPhone 3Gの国内における展望を専門家に聞くインタビューの第2弾。iPhoneの投入におけるソフトバンクや米アップルの狙いはどこにあるのか。野村証券 金融経済研究所の増野大作 企業調査部 情報通信産業調査室長 主席研究員に聞いた。

(聞き手は松元 英樹=日経コミュニケーション



iPhoneを発売するソフトバンクモバイルの狙いをどう見るか

野村証券 金融経済研究所の増野大作 企業調査部 情報通信産業調査室長 主席研究員
野村証券 金融経済研究所の増野大作 企業調査部 情報通信産業調査室長 主席研究員
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 ソフトバンクがボーダフォンを買収して以来,ARPU(ユーザー当たりの平均月額収入)は上がっている。現在,ソフトバンクモバイルのデータ通信ARPUは1500円程度。音声とデータ通信を合わせた月額通信料金が7000円を超えるiPhoneは,それを引き上げる効果がある。

 孫社長は,iPhoneの投入で新しい市場を作ると言っている。毎月7000円を支払える人は,4000円程度を払っていた人とは違うマーケットの人だ。データカードもここ1年でここまで市場が広がるとは,思われていなかった。孫社長としては,iPhoneによってプラスアルファのセグメントを作る狙いなのだろう。単純にユーザーが移動する,シェアを取り合うということではない。

iPhoneは1台目需要か2台目か。

 音声,データ定額プランへの同時加入を必須としているため,2台目ではなく,メイン機種の買い替え需要がターゲットとなる。通信料金は,従来の携帯電話でフルブラウザーを使っていたようなヘビーユーザーには大きな負担に感じないはずだ。

そもそもiPhoneの魅力とは何だと思うか。

 タッチパネルの操作性だ。サード・パーティーからは,音楽や地図,検索などのサービスが入れやすいように感じるだろう。

 NTTドコモも,シャープ製のタッチパネル搭載製品を出したが,2008年秋冬モデル以降,同様の端末がたくさん出てくるのではないか。4500万台すべてがそうなるとはいえないが,ハイエンド機種を中心にiPhoneの影響を受けるのは間違いない。

iPhoneの提供を通じてアップルが狙っているものとは何だろう。

 iPhoneのような機能やデザイン性にも優れた製品を世界中で2~3万円で売れる仕組みは簡単にできるものではない。70カ国で売れる仕組みを一挙に作り,通信事業者との関係を同時に進める作業は,トップクラスの大手メーカーでないと難しい。インドなどの新興国向けに50ドルの端末を作るのとは違う。

 アップルは,メーカーとしてスマートフォンのシェアを取ることを目指している。今回は,2~3万円の値付けをすることで世界市場のシェアを取りに来ている。通信事業者に対する卸値は高くなっているが,通信事業者としてはいったん負担すれば,ユーザーから得られる通信費で利益が取れる。通信事業者には,そうしたインセンティブが生まれる。今回から導入した販売奨励金モデルは,アップルが合理的に判断を出したのだろう。

 日本では,iモードが始まって8年が経ち携帯電話からでもインターネットをたくさん使う土壌があるが,米国ではデータ通信ARPUは7~8ドルにすぎない。欧州でもSMS(short message service)を使う程度。iPhoneはそうした状況を打開する。

今回,選に漏れたNTTドコモは何が問題だったのか。

 なぜ今回駄目だったか,理由が分からない。NTTドコモは,「グーグルのAndroidを搭載する端末ではiモード対応でなくともいい」と言っているのだから,iPhoneをカスタマイズできないとしても問題があるとは考えにくい。NTTドコモとしても,基本はシンビアンとLinuxだが,それ以外は許さないという考えはないはずだ。

iPhoneの投入で,通信事業者やメーカー,サービス事業者それぞれに大きな影響があるのか。

 iPhone初代機の発売時にまず通信事業者の意識が高まり,それがメーカーに降りていった。多くのメーカーが,同様の機能を持つ端末の開発を始めているはずだ。

 サービス事業者についてはどうだろう。公式サイトは全体の3分の1に過ぎず,残りの3分の2は一般サイトの「モバゲー」や「mixi」,「GREE」が利用している。オープンな巨大サイトが生まれているのが,今のケータイである。ビジネスモデルが変わったと大騒ぎするものではない。