「日本の開発部隊が持つ強み、そして日本のユーザーの厳しい意見が『世界のThinkPad』に生きる」。レノボ・ジャパンの天野総太郎社長はこう語る。天野社長にレノボグループの世界戦略と、それを踏まえた日本法人の方針について聞いた。
(聞き手は高下 義弘=日経コンピュータ)
レノボの全世界および日本の業績はどうか。
全世界での2008年3月期売上高は前年比で17%増の164億ドル。純利益は約3倍の4億8400万ドルになった。
PCの出荷台数は前年比22%増。PC業界の平均成長率を16%と推定しており、市場の拡大を上回る出荷台数を達成できたと言える。
米IBMからノートPC製品群「ThinkPad」事業を買収した3年前と比べると、他の外資系コンピュータメーカーと比較しても見劣りのないほどに改善した。今年1月にワークステーション事業にも参入した。ワークステーションは通常のPCに比べてより高い利益が見込める。レノボ・ジャパン単体の利益額は公開していないが、レノボ全体の利益に十分貢献できていると認識している。
ただ、利益率といった数字ばかりを追いかけるつもりはない。それよりも顧客に評価される製品とサービスを提供することが重要だと思う。
IBMから引き継いだThinkPadの信頼度や顧客満足度は抜群だ。調査会社の米Technology Business Researchが実施したビジネスユーザー向けノートPC満足度調査「Corporate Notebook Satisfaction」で1位を獲得している。
IBM時代は利益が確保しにくいということで売却の対象になったThinkPad事業だが、買収後は様々な改革を推進してきた。コスト削減や業務改善、新規市場の開拓といった取り組みを矢継ぎ早に打ったことで、短期間のうちに利益体質へと変わることができた。
利益体質への転換策が一段落し、2008年度からは第2ステージに入った。顧客満足度の向上や社内の人材育成など、より品質の高い製品やサービスを提供するための基礎を作っていく。
ThinkPadの開発はどう進めていくか。
「Best Engineered PC」、つまり最高のPCを提供することを至上命題にしていく。企業では今や「PCがなければ業務が止まる」という時代。品質の高いPCをより身近にしていくのが我々のミッションだ。
ThinkPadはすでに多くの企業から支持されているが、今後も変わらず、顧客のニーズに沿った製品を出していく。ThinkPadのブランドを壊してはいけない。特に処理性能、堅牢性、セキュリティ、使いやすさを追求する。ほかのPCメーカーに比べると、当社のPCに対する研究開発費はかなり高いはずだ。
環境問題にも対応していく。省エネ、CO2の削減、リサイクルにも注意を払っている。最新機の「ThinkPad X300」では欧米の最新の環境基準に準拠した。
製品だけでなく、サポートサービスも強化する。そのためにも、一連の業務を支える社内の情報システムを刷新中だ。現在はIBMのシステムを“間借り”、つまりIBMのシステムをそのまま利用しているが、8月から順次レノボ自前のシステムに切り替えていく。レノボが拠点を展開している60カ国のシステムを完全に移管するのはとても大変なプロジェクトだが、今後1年間でやり遂げる計画だ。
レノボ本社が日本法人に期待していることは何か。
利益への直接的な貢献に期待しているのはもちろんだが、ユーザーのニーズを吸い上げる拠点としての期待が大きい。日本企業の要求水準は他国の企業に比べて高い。日本企業のニーズにあった製品を開発できれば、全世界で通用する。
ThinkPadの研究開発はIBM時代から日本の大和事業所(神奈川県大和市)が大きく貢献してきた。現在も大和、それから米国、中国の3拠点で研究開発を進めているが、大和の開発者がほかの2拠点を往復しながら、各地の開発者とノウハウをシェアしている。
日本人だからこそ世界に貢献できることがある。日本の開発部隊が持つ強み、そして日本のユーザーの厳しい意見が世界のThinkPadに生きる。