写真●米ガートナー リサーチディレクターのビル・ガスマン氏
写真●米ガートナー リサーチディレクターのビル・ガスマン氏
[画像のクリックで拡大表示]

米ガートナーが2008年1月に発表した調査によれば、世界のCIO(最高情報責任者)が考える技術面の最優先課題は3年連続でBI(ビジネスインテリジェンス)という。2007年には米オラクルや独SAP、米IBMなど大手ソフト・ベンダーがBIソフト会社を相次いで買収するなど市場も激変。CEP(複合イベント処理)やリアルタイムBIなど新しいキーワードも続出している。BI市場を担当するガスマン氏に市場動向とユーザーへの影響を聞いた。(聞き手は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)

ここ数年、BIにまつわるキーワードが氾濫している。BAM(ビジネス・アクティビティ・モニタリング)、CEP(複合イベント処理)、CPM(コーポレート・パフォーマンス・マネジメント)などだ。ガートナーではどのようにそれらを定義し、使い分けているのか。

 略語が多くて困っているが、正式名称を書くと長くなりすぎるので、仕方なく使っている状況だ。ガートナーでは、それらのキーワードを明確に分けて使っている。最も大きな違いはイベントを扱うか、データを扱うか。イベントを扱うのはBAM、CEP、データを扱うのがBI、CPMとなる。

 BAMはもともとネットワークマネジメントから生まれたと考えると理解が早い。“今”のネットワークの通信状況を把握するためのシステムだった。その考えをビジネスの状態を示すように拡大したのがBAMだ。各情報システムが発するイベントをもとに、どの部分で業務が滞っているかなどをわかるようにする。

 さらに、複数のイベントの発生状況から異常を検知したり、適切な処理を実施するのがCEPだ。例えば、日米で同時刻に同じクレジットカードが使われたならば、不正利用の可能性が高いとしてアラートを発する、という使い方ができる。

 これらに対し、BIやCPMはデータを扱う。信号にたとえると、今が「赤」なのか「青」なのかを示すのがBAM。ある一定時間内に赤だった割合と青だった割合を円グラフなどで表示するためのものがBIだ。リアルタイムBIはデータの収集スピードを限りなく早くして、なるべく現在の状況を表せるようにしているが、厳密にはBAMのように完全にリアルタイムの状況を示すものではない。CPMはあらかじめ設定したKPI(重要業績指標)など、経営情報や財務情報と関連付けたBIのことだ。

今、BIやBAM市場をどうみているか。

 非常に大きな転換期にあると思う。専業ベンダーが続々と大手ソフトベンダーに買収されていることが、それを端的に表している。昨年は独SAPが米ビジネスオブジェクツを、米IBMがカナダのコグノスを、米オラクルが米ハイペリオン・ソリューションズを、米ティブコソフトウェアが米スポットファイアーを買収した。

 大手ベンダーの買収により、BIソフトは業務アプリケーション、もしくはBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ソフトと統合されることになる。ユーザーにはメリットとデメリットがあるだろう。メリットとしては、アプリケーションやBPMで実行しているビジネスプロセスの状況を監視したり、分析することが容易になる。しかし、ベストな製品を選択できなくなる可能性や、外部のイベントを取り込むことが困難になる可能性がある。

 ただ現状では、もともと別会社のものだった製品をセットで販売しているだけに近い。統合作業は各社にとって最大の課題だと思う。それでもIBMは比較的早く統合させているのではないか。

普及状況をどうみるか。

 特定業務ではかなり普及していると思う。銀行の不正融資の検知、通信業における申し込みプロセスの自動化などが典型例だ。変わったところでは、遊園地での混雑状況の管理、運輸業における輸送が禁止された貨物の発見などに利用されている。

 しかし、一般的な業務で半数以上の会社が使っているかといえば、そうではない。技術的にはもっとできることがあるのに、残念ながら経営者に対する認知度が低いのが原因だと思う。

 すべての会社が競争力を高めるために、もっとBIやBAMをもっと活用すべきだと考えている。潜在的ニーズはきっとあるはず。経営者と話をするときは「1日前にわかっていたら対策を打てたのに」と後悔したことはないか?と聞くようにしている。すると、たいがいの経営者は過去に思い当たる節がある。その部分から導入すればよい。はじめは小さくてもかまわない。成功体験を積みながら、より大きい仕組みに適用していけば、経営判断のスピードを底上げできるはずだ。