ビデオ会議システム大手の米ポリコムは2008年6月から日本で遠隔教育事業を本格的に始めた。学校や博物館、美術館など教育機関に働きかけ、遠隔教育プログラムの制作を支援する。同社Webサイトなどを通じて、遠隔教育プログラムの提供側と教育を受けたいユーザー側を結びつける。同社で教育アプリケーション事業を担当するマーシー・パウエル氏に、事業の概要や狙いを聞いた。

(聞き手は高下 義弘=日経コンピュータ


ポリコムは遠隔教育の活性化にどう関与するのか。

米ポリコムで高等教育担当グローバルディレクターを務めるマーシ・パウエル氏
米ポリコムで高等教育担当グローバルディレクターを務めるマーシ・パウエル氏
[画像のクリックで拡大表示]

 学校や博物館、美術館に働きかけて、ビデオ会議システムを使った遠隔教育プログラムの制作を支援する。ビデオ会議システムが持つ双方向性を生かしたコンテンツは教育効果が高いが、ある程度ノウハウが必要だ。教育機関や博物館の多くは、教育啓蒙活動を地域だけでなく世界中に広げたいと思っている。そうしたニーズをくんで実施しているのがこの事業だ。

 この事業を通じて整備された遠隔教育プログラムの情報は、ポリコムのWebサイトを通じて世界中のポリコム・ユーザーに提供する。米国、英国、オーストラリア、カナダなど英語圏で作られたプログラムはすでに約3000あり、専用Webサイトでその概要を検索できる(ポリコムのプログラム検索用Webページ)。NASA(米航空宇宙局)が提供する科学技術分野の遠隔教育プログラムが人気だ。宇宙の仕組みや航空技術などを小中学生に教える。

 ポリコム製品のユーザーなら、このプログラムを受講できる。受講料は、無償から100~200ドル程度まで様々だ。料金は全額がそのまま受講者からプログラム提供者に払われる形をとっている。ポリコムは仲介料などを取っていない。

ビデオ会議システムのハードウエアベンダーであるポリコムがなぜ教育コンテンツの支援事業を手がけるのか。

 ビデオ会議システムは大手企業を中心に一通り普及してきた。ビデオ会議システムの利用シーンを増やすことで、製品の新たな需要が喚起できる。そもそも教育機関は大学などの遠隔教育システムの導入で実績があり、ポリコムとして非常に重要視している。

 私は遠隔教育の団体である米遠隔教育協会(USDLA)のプレジデントも務めており、その立場からも遠隔教育の重要性を強調したい。利便性など様々な面で都市部と周辺部の格差が進んでいる。これは世界的な現象だ。この格差は教育レベルの差に発展してしまうおそれがある。ビデオ会議システムで格差を埋めることが可能だと考えている。

 以前、まだ教育インフラがそれほど整っていない地域に住む生徒に遠隔教育プログラムを提供したところ、大変な好評を博した。場所を越えて人々が会話できるビデオ会議システムだからこそ実現できた。

 今のところ、この事業単体でビジネスとして成り立っているわけではない。だが、中長期的にみれば当社の事業にもたらすメリットは少なくない。回り回ってビデオ会議システムの市場拡大につながる。

 今後は遠隔教育プログラムの拡充を進めていく。ほとんどが英語圏で作られた英語コンテンツだが、今後は日本など他の地域にも広げていきたい。今回はそのために来日した。今は小中学校向けのコンテンツが多い。大学や社会人向けのプログラムも拡充していくつもりだ。