中国のネットワーク機器ベンダーであるファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)は,日本での知名度は低いものの,国際的には数多くの分野で高いシェアを占め,大きな存在感を示している。そのファーウェイが,「FSAN」という新しいタイプの装置で,世界のPON装置市場でのトップ・シェアを狙っているという。同社の日本法人である華為技術日本,東アジアネットワークプロダクト部の賈朝龍部長に話しを聞いた。

(聞き手は高橋 健太郎=日経コミュニケーション



ファーウェイの現在の売り上げはどのくらいでしょうか。

東アジアネットワークプロダクト部の賈朝龍部長
ファーウェイ日本法人 東アジアネットワークプロダクト部の賈朝龍部長 [画像のクリックで拡大表示]
 2007年の売上高は160億ドルでした。2008年は230億ドルを目指しています。2008年は,ファーウェイ本社の設立から20年目に当たります。最初は10人くらいの小さな会社でしたが,今は7万人の企業に成長しました。そして,その20年の間,ほぼ30~50%の成長を続けることに成功しました。

その中でも特に研究開発に人員を多く割いていると聞いています。

 従業員の48%が研究開発部門の所属です。この数字は平均より上と理解しています。ほとんどの企業ではマーケティングやサービスに人員を割くため,研究開発部門の人員は30%程度になるのが一般的です。しかし当社は,今後も研究開発に力を入れ,発展につなげていきます。

現在,どのような製品が売れているのでしょうか。

 当社には,いくつもの製品のラインナップがあります。その中でも特に,固定ネットワーク向けの製品,無線ネットワーク向けの製品,通信事業者向けのソフトウエア製品の3分野の製品がよく売れています。

 これらのうち,固定ネットワーク向けの製品は当社が最初に手がけた製品で,2007年は全体の3分の1,52億ドルの売上高でした。

 固定ネットワーク向けの製品にもいろいろな種類がありますが,とくに売れているものは「MSAN」と呼ばれる装置,DWDM(dense wavelength division multiplexing)やSDH(synchronous digital hierarchy)などの光伝送装置です。これらの装置は,社内での売り上げ比率が大きいだけではなく,世界市場でも高いシェアを持っています。特にMSANはトップ・シェアです。

MSANとは,どういった装置なのでしょうか。

 MSANは「multi-service access node」のことで,さまざまなタイプのメタル回線を収容できる装置です。具体的には,アナログ回線,ISDN,各種のDSL回線を一つのシャーシに収容できます。

 従来は各インタフェースごとに異なる装置を使っていたので運用が大変でしたが,MSANを使うことによって一つの装置だけを利用すればよくなるため,運用コストを大きく低減できます。

FTTHの光回線は収容できないのでしょうか。

 当社では,光回線を収容できるものはMSANと区別し,「FSAN」と呼んでいます。この先頭の「F」は「full」を意味しています。当社のFSANは,EPON,GE-PON,G-PONのどのFTTH向けPON方式にも対応しています。

 FSANは,光回線だけではなく,従来のメタル回線もいっしょに収容できます。また,インタフェース・モジュールを入れ替えることで,それらの比率も柔軟に変えられます。このため,ADSLからFTTHに移行する際に,ノード数を大きく減らし,運用コストを下げられるのです。

MSANやFSANは,どのくらい導入されているのでしょうか。

 当社はこれまで,全世界で8300万回線分のMSANを販売しました。2007年の販売実績は,(1)南米,(2)欧州,(3)アジア・太平洋地域の順でした。

 欧州では,英BT,ドイツ・テレコム,スペインのテレフォニカ,テレコム・イタリアに納入しています。特に,BTは同社のNGN「21CN」のアクセス回線用に,当社の120万回線分のMSANを導入しました。FSANはまだ少なく,2007年に試験的に導入したばかりです。

FSANは,始めから光回線を前提にしているNTTのFTTHにとってあまり意味を持たないかもしれませんが,ソフトバンクやKDDIでは効果的に使えるのではないでしょうか。この両社に対する売り込みはどのように考えていますか。

 私は日本に製品を売るために来ました。来年の今ごろには,結果を公表できればと期待しています。

今後は,FSANをどのような方向に発展させていくのでしょうか

 現在,FSANはレイヤー2の機能しか備えていません。今後は,FSANにレイヤー3の機能,すなわちルーティング機能を搭載することを考えています。こうすることで,従来は別々だったFSANと上位のルーターを1台のシャーシに統合し,ノード数を減らしてネットワークを簡略化できるようにします。

 今後は,FSANのようなアクセス装置にルーティング機能を取り入れることはトレンドになっていくでしょう。

 さらに,その次の段階として,ADM(add/drop multiplexer)の機能も搭載し,メトロ・ネットワークの伝送機能まで統合します。こうして,ますますネットワークを簡略化し,運用コストを下げられるようにします。

 ファーウェイは今後,FSANとFTTX向け装置の開発に対して,今後は他社よりも大規模な投資をしていきます。製品本体だけではなく,そのチップセットの開発にも投資します。

 すでにファーウェイはDSLの分野で世界No.1になりました。PONの分野でもNo.1を目指します。すぐには難しいかもしれませんが,それを目指して努力を続けます。それがファーウェイです。