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ERP(統合基幹業務システム)パッケージ「Oracle E-Business Suite」「PeopleSoft」「JD Edwards」、CRM(顧客情報管理)ソフト「Siebel」など、相次ぐ買収でアプリケーション製品を急ピッチで増強する米オラクル。2008年中には新たなアプリケーション製品群「Fusion Applications」を出荷予定だ。アプリケーション戦略担当のアンダーセン氏は 「Fusion Applicationsの開発は新技術を取り入れるために欠かせない」と強調する。(聞き手は島田 優子=日経コンピュータ)

Fusion Applicationsの動向は。

 予定通り08年中に最初の製品を出荷する計画だ。「Fusion」は「SOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方を取り入れている」ことを示すブランド名と考えてほしい。SOAに基づいてシステムを構築するために必要なミドルウエア群を「Fusion Middleware」と名づけたのも、そのためだ。

 Fusion Applicationsの特徴は大きく四つある。まず使い勝手がよいこと。金融機関向けの「i-flex」といった一部のアプリケーションでは、Fusion Applicationsの設計思想を踏まえたユーザー・インタフェースをすでに採用している。

 二つめは先ほど説明したように、SOAに基づいていること。三つめはSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)としても提供できること。四つめはBI(ビジネス・インテリジェンス)の機能をアプリケーションに組み込んでいることだ。

Fusion Applicationsには、どのようなアプリケーションが含まれるのか。

 中核となるのは「Fusion Application Suite」だ。ERPやCRMといった機能を提供する。四つの特徴を持ち、買収した製品の利点を集めた“ベスト・オブ・ブリード”となる。

 Fusion Applicationsと名前がつく製品は、運用・保守の方法も統一していく。どの製品から導入しても簡単に拡張していけるのが特徴だ。最初の製品としてSFA(営業支援)のアプリケーション群「Fusion SFA Applications(仮称)」を提供することを07年に発表した。顧客分析など既存のCRMソフトの機能を補う位置づけだ。

新製品を投入する一方で、買収した製品のサポートを続ける「アプリケーション・アンリミテッド」戦略を掲げている。

 アンリミテッド戦略は好評だ。発表してから新規のライセンス販売も順調に伸びている。

 顧客がもっとも不安に思うのは「いつまでアプリケーションを使い続けられるか」だ。すでにアプリケーションに対して大規模な投資をしており、しかも投資対効果がまだ見えていない企業が少なくない。顧客の状況を考えれば、いつまでも安定的にアプリケーションを利用できる環境の提供は欠かせないと判断した。

バージョンアップをしても、違う製品にはできない

現在のアプリケーションを継続して利用できるにもかかわらず、Fusion Applicationsを新たに投入する意味は?

 先進的な技術に取り組むためには、新しい製品が必要だと判断した。使い勝手の向上を目指し、Web2.0の技術を取り入れるといったことだ。

 PeopleSoftやJD Edwardsといった既存製品が優れているのは間違いない。一方で、出荷を始めてから10年以上たっている。バージョンアップで機能強化は可能だが、全く異なる製品にはできない。

 基幹系のアプリケーションだから「Web2.0のような使い勝手は必要ない」と思う人もいるだろう。だが数年後には、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「MySpace」や「Facebook」を使いこなしている世代が入社してくることを想像してほしい。私には12歳と16歳の娘がいる。彼女たちのようにWeb2.0に慣れ親しんだ世代が新入社員になったときに、今のアプリケーションのユーザー・インタフェースでは満足しないだろう。

「基幹系は動いている限り、手を入れたくない」と考える顧客も多いのでは。Fusion Applicationsへの移行は進むのか。

 Fusion Applicationsへの移行は強制しない。だが、とても良い製品だと確信している。先進的なアプリケーションを入手しようと、Fusion Applicationsに興味を示す顧客企業もすでにいる。Fusion Applicationsの良さに気づいた顧客が、徐々に移行してくれるのではないか。

 一方で、Fusion Applicationsへの移行は見合せわるが、当社のほかのアプリケーションを組み合わせて、あたかも一つのアプリケーションとして利用したいという顧客もいる。そうした顧客に向けて提供しているのが「PIP(プロセス・インテグレーション・パック)」だ。

 PIPはSOAの考え方を取り入れ、一つの業務プロセスを実現するために複数の製品をサービスとして呼び出して連携させる。例えば、Oracle E-Business SuiteとSiebelを連携させて注文から入金までのプロセスを実行するPIPを提供している。業務プロセスや呼び出すアプリケーションを事前に定義しているので、スクラッチ(手作り)による開発と比べて80%程度、開発コストを削減できる。

Fusion Applicationsで、顧客企業の基幹系システムのすべてをカバーできるのか。

 パッケージ・ソフトで企業の業務すべてをカバーできる時代は来ないと思っている。スクラッチ開発の領域は必ず残るだろう。当社のアプリケーションでカバーできるのは、企業の業務の80%くらいではないだろうか。

 CIO(最高情報責任者)は、自社の差異化の源泉になっている業務を支援する機能にパッケージを利用したいとは思わないだろう。ごく少数の企業しか利用しないようなアプリケーションは、利益を確保するのが困難だという事情もある。

競合である独SAPをどう見ているか。

 大企業向けのアプリケーション市場で、SAPが良い製品を提供しているのは間違いない。問題はSAPが、中堅市場向けに注力している点だ。SaaSとして提供する新製品などに力を入れている。大企業向けの顧客は「自分たちが支払った保守料金が、なぜ中堅企業向けに利用されているのか」という不満を抱くのではないだろうか。