食材の品質偽装や使い回しが発覚した料亭「船場吉兆」が5月28日、廃業を発表した。この事件が象徴するように、品質偽装を起こさない体質作りや、万が一問題を起こしてしまった際にいかに対応するかによって、企業の命運は大きく左右される。
こうした認識の下、品質偽装の防止に力を入れる1社が青汁メーカーのキューサイ(福岡市)だ。同社は1999年、ケール100%の青汁をうたいながら、一部の製品でキャベツの混入が発覚して製品回収を余儀なくされた。この苦い経験を踏まえ、再発防止への対策に現在も余念がない。藤野孝社長に品質問題への取り組みを聞いた。
1999年のキャベツ混入問題の原因と対策は
キューサイ 藤野孝社長 |
事件の発覚後、主に2つの対策を施した。1つはトレーサビリティー(生産履歴の追跡)を確保し、どの商品にどのケールを使ったのかを把握できるようにしたこと。もう1つは、長期的な生産計画に基づいてケールの在庫を十分に確保することだ。契約農家のケールの苗が不足した場合には、当社の育苗センターで栽培した苗を農家に提供し、栽培してもらうことで再発を防いでいる。
それだけでなく、品質に対する社内の意識を高める活動も重要だと考えている。他社で最近発覚した不祥事を見ていると、トップが指示した例がある一方、現場の意識を高める教育が徹底しておらず、善悪の判断がつかないまま引き起こした事件もあるからだ。
具体的には、どのような施策で現場に品質に対する意識を根付かせようとしているのか
藤野 大きく2つある。1つは外部監査の活用。もう1つは、社内での勉強会を通じた意識向上活動だ。
外部監査は、冷凍食品大手で品質管理のノウハウが豊富なニチレイフーズ(東京都中央区)に依頼している。当社の子会社が2008年3月まで、同社の冷凍食品のOEM(相手先ブランドによる生産)を手がけていたことを生かしたものだ。青汁に関してはニチレイフーズさんと直接的な取引はないが、青汁の製造拠点である北海道、島根県、福岡県の3工場で品質などについてを監査してもらっている。
子会社の冷凍食品工場では、ニチレイフーズさんから頻繁に監査を受けており、これに合格しないと商品を出荷できないという緊張感が生まれた。それが現場の意識を高めるのに役立った。
一方、当社の主力商品である青汁の工場は、個人顧客への通信販売や取次店への出荷が大半。外部の目にさらされる機会がほとんどなかった。決して品質管理で手を抜いていたわけではないが、冷凍食品の工場のような緊張感を現場が味わえない。そこで2007年に、青汁の3工場についてもニチレイフーズさんに監査をお願いした。
冷凍食品の子会社は4月にニチレイフーズさんに売却したが、青汁の工場の外部監査は今後も続けていきたい。
また、意識向上の取り組み例としては、2007年3月に私も参加して開いた「品質勉強会」がある。青汁を製造する3工場に出向いて、1泊2日の合宿形式で社員たちと品質について話し合った。2008年度は3拠点それぞれで年6回、勉強会を開催する方針だ。
勉強会ではどのような内容を話し合っているのか
昨年の勉強会を例に取ると、初めに私自身の品質の考え方を2時間ほど話した。例えば「顧客に間違ったものを出してはいけない」「現場で品質問題を勝手に判断するのは危険。発生したミス自体は許すので、隠さないようにしてほしい」といった内容を訴えた。
次に、現場で問題だと感じていることや、それについて現時点でどのような対処ができるかを社員同士で議論してもらった。意見が出やすいよう、この議論には私はあえて加わらなかった。議論の後の報告を聞き、現場の品質に対する意識が高まっていることが確認できた。
前向きな意見ばかりではなく、「実際に取り組むと難しい」といった声も上がってこないか
このような疑問には「品質を高めてもコストを見直す余地はあるはずだし、顧客が評価すれば売り上げが高まるだろう」と徹底的に話し合った。命令でやらせるのと、十分に意味を理解してもらって取り組んでもらうのとでは、取り組みに対する深さが全く違ってくると考えている。