家庭用ゲーム機Xbox 360用の開発環境「XNA Game Studio」を一般の開発者に無償で公開し,さらに一般開発者が開発したゲームを「Xbox Live」で配布できるようにした米Microsoft。同社XNA担当DirectorであるDave Mitchell氏は,開発環境を無償で公開した理由を「コンピュータ科学に興味を持つ学生を増やすこと」にあると語る。(聞き手は中田 敦=ITpro)



<b>写真1</b>●Microsoft XNA担当DirectorのDave Mitchell氏
写真1●Microsoft XNA担当DirectorのDave Mitchell氏
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<b>写真2</b>●ユーザーが開発した「画面は手書き風,効果音や音楽は開発者の声だけ」というレース・ゲームで遊ぶMitchell氏
写真2●ユーザーが開発した「画面は手書き風,効果音や音楽は開発者の声だけ」というレース・ゲームで遊ぶMitchell氏
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 米Microsoftは2008年2月,「Xbox 360」のオンライン・サービス「Xbox Liveマーケットプレイス」で,一般のユーザーが制作した「Xbox 360用の自作ゲーム・タイトル」を,他のユーザーがダウンロードできるようにすると発表した(関連記事:いよいよ「家庭用ゲーム機」もオープン・プラットフォームに)。

 すでにゲーム開発環境の「XNA Game Studio」は2006年12月以来,無償で公開されており,在野のゲーム・プログラマがXbox 360用のゲームを開発して配布する環境が整いつつある(配布自体は2008年内に行えるようになる予定)。

Microsoftが,ゲーム開発環境のオープン化を行った理由を教えてください。

 われわれは現在,ゲーム産業においてイノベーションが少なくなっているのではないかと懸念しています。大手ゲーム・パブリッシャが発売するゲームはそれぞれに進歩は見られますが,非常に似通ったものになりつつあります。ゲーム・タイトルには,レース,スポーツ,格闘,パズル,RPGといった確立された「ジャンル」が存在し,それ以外の新しいジャンルが登場しにくくなっているのです。

 新しいタイプのゲームが登場しなくなった最大の理由は,ゲーム・パブリッシャの多くが,リスクを恐れるようになったことです。最近の家庭用ゲーム・タイトルの開発には,何千万ドルもの費用が必要であり,ゲーム・パブリッシャはリスクにナーバスになっています。

 その一方で,家庭用ゲーム市場への参入は年々難しくなっており,ゲーム・パブリッシャの数自体も増えにくくなっています。なぜなら,新しいアイデアを思いついた開発者がいたとしても,開発したゲームを宣伝したり,流通に乗せたりすることに多額の費用がかかるようになったからです。

 われわれがゲーム開発環境をオープンにしたのは,新しいアイデアを持った在野の開発者にゲーム市場に参入してもらうことで,ゲーム産業にイノベーションやクリエイティビティを注入しようと考えたからです。

在野の開発者にゲーム市場への参入を促すことが,XNA Game Studioを公開した目的なのですね。

 われわれの取り組みは,「Wikipedia」などに見られる「Web 2.0」や「集合知」の動きに似ています。

 世界には,優れた才能を持った人々が多数存在します。そういう人々に対して,適切なツールを提供し,コミュニティを作り出すように促すことで,Wikipediaのような知識や,動画,音楽,写真といったユーザー作成コンテンツが,インターネットに大量に溢れ出すようになりました。それと同じことを,ゲームでも起こしたいと考えているのです。

コンピュータ科学の人気低下を懸念

 別の理由もあります。われわれは,IT産業を取り巻くある深刻な問題にも,強い懸念を持っています。それは,学生が昔ほどコンピュータ科学に興味を持たなくなったことです。

 ゲーム産業を含むIT産業は,大学で高度なコンピュータ科学を学んだ学生を大量に採用する必要があります。コンピュータ科学を学ぶ学生が少なくなるということは,われわれにとって死活問題です。「ドットコム・バブル」崩壊以降,学生はコンピュータ科学に興味を持たなくなり,映画などの別の分野に関心を示すようになってしまいました。

 われわれは,ゲームこそが人々の目をコンピュータ科学に向けるパワフルなモチベータ(動機)になると考えています。ゲーム開発を通じて,学生にコンピュータ科学に対する興味を持ってもらいたくて,XNA Game Studioを無償で公開したのです。

そういえば私(記者)も,10歳の時にMSXパソコンを購入して,ゲームやりたさにBASICプログラミングに手を出したものでした。

 そうでしょう。私も同じく10歳の時に「ATARI 400」(関連情報:WikipediaにおけるATARI 400などの記述)を手に入れて,同じようにゲームがきっかけで,プログラミングを始めました。この業界を見渡すと,皆そのような経歴を持っています。

 2006年12月に「XNA Game Studio」を公開して以来,多数の教育機関に対して,このプラットフォームを採用した講座を行ってもらうよう,働きかけをしています。すでに世界で500校の大学が,XNA Game Studioを使ったゲーム開発講座を開講しています。

 またXNA Game Studioのダウンロード件数は,すでに100万件に達しており,600以上のゲームが在野の開発者によって開発されています。