【前編】立ち上げ時はモバイルWiMAXに対する夢を見せたい

KDDIなどが出資するUQコミュニケーションズは,2007年末に2.5GHz帯の無線ブロードバンド免許を獲得した。モバイルWiMAXを2009年から全国展開する。採用事業者の少なさからモバイルWiMAXの将来を不安視する声が聞こえる中,同社は事業の勝算をどのように描いているのか。今後の事業展開やサービス像について,田中社長に聞いた。

2009年のサービス開始に向けて,今後の具体的な事業計画を教えてほしい。

 2008年5月から基地局の展開を始め,2009年2月に東京と横浜,川崎で試験サービスを始める。2009年夏には商用サービスを開始する予定だ。この時点で最低1500局の基地局を設営し,東名阪をカバーする。

 試験サービスはエリアが限られていることもあり無料で提供する。ユーザーの使い方を調査してから,商用サービスのスタート時に有料化する。その時にはモバイルWiMAXに対して夢を持ってもらうために,ショーケースとなる使い方を提案するつもりだ。

2007年末の免許審査では,基地局展開の早さへの評価が高かった。

 基地局の展開は,2008年3月末でサービスを終了したツーカーの基地局跡地を使うパターンと,au携帯電話の基地局に併設するパターンの二つで進める。これらによりコストダウンが図れ,スピーディーなエリア展開が可能になるだろう。

 モバイルWiMAXの基地局は,物置ほどの大きさがある携帯電話の基地局と比べて,アンテナのポールにくくりつけられるほど小さい。このため置局作業を大幅に簡略化できる。

 しかもインフラをデータ通信専用として作るので,音声通話が前提となっている携帯電話と異なり,基地局間で厳密なシームレスさを求める必要がない。その点も基地局の展開を楽にしている。

2012年時点の加入目標として560万という数字を掲げている。サービス開始3年の数字としては大きな数字に見える。

 確かに560万という数字を達成するには現在のデータ通信市場に加えて,新たなブレイク・スルーが必要になるだろう。

 最近になって,携帯電話でもパソコンでもない,その間に位置するUMPC(ultra mobile PC)やMID(mobile internet devices)といった新しい端末市場が開きつつある。こういった端末こそモバイルWiMAXが新たにターゲットとする市場だ。

 将来的には情報家電やゲームなどへの組み込み用途も見込んでいる。既存のデータ通信市場に新しい市場を加えて560万という数字になった。

UMPCなどの新しいジャンルの端末の市場が,どれだけ広がるのかについて疑問視する声もある。

 それには反論したい。例えば最近,低価格のサブノート・パソコン「Eee PC」が登場したが,これまでとは少し違う動きをしていると感じている。こうした端末は,かつてのPDA(携帯情報端末)に飛びついたアーリー・アダプターしか買わない傾向にあったが,Eee PCは一般ユーザーも購入している。パソコンでも携帯電話でもない市場が確実に広がっている証拠だ。

田中 孝司(たなか・たかし) 氏
写真:吉田 明弘

 これまでなぜその市場が大きく広がらなかったのかと言うと,高速で消費電力が少ないCPUが存在しなかったからだ。ユーザーからは携帯端末に対してパソコン並みの描画性能を求めるニーズがあるが,高速なCPUは消費電力が大きく,低価格端末には載せられなかった。

 しかしここに来て米インテルは,これまでよりも大幅に消費電力を抑えたCPUとチップセットを市場に出そうとしている。このCPUとチップセットを利用すれば,パソコン並みの描画性能を持った小型端末を実現できる。

 2009年から2010年にかけて,こういった新しい端末の市場が立ち上がると見ている。モバイル環境でより高速なネットワークを利用するニーズが盛り上がってくるだろう。

サービス開始当初の端末イメージは。

 当初はカード型やUSBドングル型の端末を考えている。少し時間が経てば,SDカードに入るまでモバイルWiMAXの通信機能は小型化されるだろう。パソコンやUMPCへモバイルWiMAXの通信機能を組み込むことを進めていく。

 モバイルWiMAXでは,無線LAN(Wi-Fi)と同様に,業界団体である「WiMAX Forum」が認証した機器であれば,どのメーカーの端末でも利用を保証する点が大きい。今の携帯電話の垂直統合モデルのように,事業者が端末をすべてコントロールすることはもう無い。規格に合った端末は,どれでも利用できるようにしていく。

 将来的には各メーカーから多種多様な端末が登場するだろう。これらを我々のネットワークでも使えるようにしていきたい。

>>後編 

UQコミュニケーションズ 代表取締役社長
田中 孝司(たなか・たかし) 氏
京都大学大学院工学研究科電気工学第2専攻修了。米スタンフォード大学大学院電子工学専攻修了。1981年に国際電信電話入社。2001年6月にKDDIのIP事業本部eビジネスシステム部長。2003年4月に同執行役員ソリューション事業本部ソリューション商品開発本部長。2007年6月に同取締役執行役員常務ソリューション事業統轄本部長に就任。2007年8月からワイヤレスブロードバンド企画(2008年3月からUQコミュニケーションズ)代表取締役社長を兼務。趣味は読書。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年3月19日)