ウイルス対策ソフト「BitDefender」を開発するルーマニアのBitDefenderは,振る舞い検知型の技術で歴史の長いベンダーである。ウイルス・プログラムの動作時の振る舞いを監視して攻撃パターンを捕捉する方式により,シグネチャがまだ存在しない未知のウイルスにも対処しやすい。ルーマニア本国を含む欧州での市場シェアが高い。2008年5月には,新たにサンブリッジ ソリューションズを国内総販売代理店とし,法人分野を中心に日本市場に参入した。同社でGlobal Sales Directorを務めるGinger Yerovsek氏に,日本市場での意気込みについて聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro



ルーマニアBitDefenderでGlobal Sales Directorを務めるGinger Yerovsek氏
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ウイルス対策市場でのBitDefenderの位置付けは。

 まずは生い立ちを語ろう。BitDefenderの前身は,ルーマニアのSOFTWINという会社の一部門だ。最初は売り物のソフト製品ではなく,1990年代にSOFTWIN社内で使う自社ツールとして開発された。当時はウイルスと言えば東ヨーロッパから出てきたものがほとんどであり,SOFTWINの社内ネットワークにもウイルスが侵入し始めていた。しかし,当時,市場に出ていたウイルス対策ソフトをいくつか試してみたもののどれも良くなかった。だから自作した。

 その後に外販することになり,名前を売っていった。ルーマニアではシェアNo1であり,フランスでもNo1だ。ドイツ,スペイン,ポルトガルなどでもトップ3のシェアに入っている。このように欧州市場では極めて著名なウイルス対策ベンダーだ。1年半前から北米にも進出し,売上額にして年率150%の成長を続けている。

 この勢いに乗って,日本市場に殴り込みをかけにきた。市場開拓のため,新たにサンブリッジ ソリューションズと組む。日本市場では今後,3年から5年ほどで売上高を数十億円とし,シェアでトップ5に入ることを目標にしている。なお,会社組織としては,2007年7月にSOFTWINから独立してBitDefenderとなっている。

BitDefenderの市場競争力は何か。

 一番の差異化のポイントは,B-HAVE(Behavioral Heuristic Analyzer in Virtual Environments)と呼ぶ,振る舞い検知機能だ。これは実際にウイルス・プログラムを安全な仮想コンピュータ上で動作させ,その振る舞いを監視し,ウイルスとしての攻撃パターンを持つかどうかを調べるというものだ。実際に動かして安全かどうかを見るので,まだシグネチャが存在しない未知のウイルスであっても対処できる。そもそもシグネチャだけの対策では,作られるウイルスの数が急増している現在では無理がある。2007年に作られたウイルスの数は約520万件もある。

 現在でこそ代表的なウイルス対策ソフトの多くが振る舞い検知型のウイルス対策機能を備えてきているが,10年近く前の1999年11月から振る舞い検知型のウイルス対策を実現してきたBitDefenderとは,完成度/成熟度がまったく違う。我々は振る舞い検知の技術において,彼らよりも一歩先を進んでいると自負している。もちろん,BitDefenderは振る舞い検知に加えてシグネチャ・ベースのウイルス対策機能も備えている。

日本市場にはどのような製品を投入するのか。

 2つの製品ラインを用意している。まずは2008年5月中にクライアントPC向けのスタンド・アローン型総合セキュリティ・ソフト「BitDefender Total Security 2008日本語版」をパッケージ販売する。その後,Webサイトからのダウンロード販売も始める。こうした地道な活動によって知名度を徐々に上げていき,2008年秋にはエンタープライズ(ユーザー企業)市場向けの製品「BitDefender Client Security日本語版」をチャネル販売する。

 エンタープライズ向けのBitDefender Client Securityは,企業向けのライセンス体系であると同時に,エンドユーザーのクライアントPCに導入したウイルス対策ソフトをシステム管理者が集中管理できるようにするものだ。オプションにより,クライアントPCだけでなく,ファイル・サーバー向けのモジュールや,電子メール・サーバーやWebプロキシ・サーバーなどのゲートウエイ向けのモジュールや製品を用意する。

機能面のほかに価格などの優位性はあるか。

 我々は価格で勝負しようとはまったく考えていない。価格を安くしても意味がない。価格帯としては,有名どころの他社のウイルス対策ソフトと同等と考えてもらいたい。振る舞い検知機能の優位性や,動作が軽くてリソースをあまり消費しない点など,実際に使ってみると良さが分かる点が多くある。こうした機能面の強みで,現在の市場シェアを切り崩していく。

 市場の開拓は難しくはない。確かに,ホワイト・スペース,つまり依然としてウイルス対策ソフトが入っていないユーザー企業は少ない。だが,ユーザー企業は,一度導入したウイルス対策ソフトのブランドを変更しないわけではない。実際には,ライセンスの期限が切れるタイミングでリプレースを検討している。こうしたリプレース需要を狙うことで,日本のトップ5に入れる自信はある。