ケータイが常識を変える,告知から購入まで完結

ディーツーコミュニケーションズ(D2C)は、NTTドコモの「iモード」など携帯電話事業者のネットサービスにおける広告事業を軸に、一般サイトも対象に幅広くケータイ広告事業を手掛けている。NTTドコモと電通が同社の主要株主だ。企業のケータイ活用が急速に進む中、ケータイ広告市場はどうなっていくのか。現状と今後の見通しを、藤田社長に聞いた。

ケータイ向け広告市場の状況はどうか。

 先日、電通が発表した2007年の日本の広告費によると、ケータイの広告費は621億円、前年比で59.2%増となった。全媒体のうち一番の伸び率で、BSデジタル放送などの衛星メディア関連広告費(603億円)を抜いた。ユーザー側のメディア接触がパソコンやケータイに移行しているというのが現状だろう。

 伸びたのは、まず純広告(ピクチャー広告など)。「iMenu」(iモードのポータルサイト)やauの「EZweb」のページは、広告料金は高いが顧客がついている。ディー・エヌ・エーの「モバゲータウン」といった一般サイトの広告市場も大きく伸びた。iMenuや公式サイトの広告市場の方がまだまだ大きいが、将来的には公式サイトと一般サイトで半々くらいの市場規模になる可能性もある。いずれにしてもパケット定額制が普及し、ユーザーがあまねくケータイサイトを見るようになったことが大きい。

 また、ケータイ向けの検索連動型広告は生まれたてという段階だが、これから次第に成長するはずだ。当社は上場していないので売上高などの数字は明かせないが、業績は市場と同じ傾向にある。

バナーなど純広告が伸びたのはなぜか。

 プル型の純広告としては、iMenuに入っていったときに、画面左側に広告が出る。iMenuトップは1日に1000万人単位でユーザーが通る場所で、ここに数日出しておけば数千万人が何気なく目にする。映画や自動車、テレビ番組などの有効な告知媒体になる。「こんな商品があったらもっと生活がハッピーになるな」とか、自分の消費欲に気付かせる、刺激を与えるといったことができる。

 面白いのが、「逆クロスメディア現象」が起こっていること。モバイルで初めて知って、既存メディアに対してアクションを起こす。例えばケータイでマンションの広告を見て、そのチラシを探すといった現象だ。ケータイで初めて知るという人が、現実として存在している。そこまできている。

 4月にはiMenuトップに検索窓ができる。左側の純広告で興味を持ったユーザーが、その後に検索する可能性が大きくなる。ユーザーの評判を知りたい、ライバル商品も見てみたいといったニーズからだ。そのとき、検索結果と検索連動型広告のどちらにヒットするか分からないが、そこから購入まで一気に進む可能性も出てくる。ケータイで初めて知り、そこで購入までいく。ケータイだけで完結するサービスの提供が、現実的になってきた。

メール広告市場についてはどうか。

 (広告媒体となる)同じプッシュ型サービスでも、メール配信事業者のサービスと、NTTドコモが配信する「メッセージF」では大きな違いがある。

 メッセージFはユーザーのメールボックスには入らず、別枠で配信される。一方、メールボックスの中に入って、そこで開封してもらうサービスは「友達からのメール」がライバルになる。メール配信事業者が「友達」のレベルにまでなっていれば開封されると思うが、そこまで行くのはかなり難しい。また迷惑メール規制が強化され、ユーザーから配信のパーミッション(承諾)を得る必要が出てくる。その承諾の際のユーザーの安心感・信頼感を考えると、携帯電話事業者の公式メニュー的な配信サービスに集約されていくのではないかと考えている。

 我々としては現在、メッセージFのビジュアル化に力を入れている。全日本空輸(ANA)などの事例では、HTMLメールで、きれいに印刷されたダイレクトメールに近い形でユーザーの手元に飛び込んでくる。今後はFlash化も進めていきたいと考えている。

藤田 明久(ふじた・あきひさ) 氏
撮影:山田愼二

株主のNTTドコモはグーグルとモバイルネット分野で提携したが、D2Cはどうかかわるのか。ケータイ向け広告は、どう進化していくか。

 提携で新サービスを検討しているのは確かだが、まだ答えられない。期待値が上がっているので、その期待に応えていきたい。

 市場全体で言えば、行動ターゲティング広告がモバイルでも導入されていくことになる。パソコンの場合は、どのサイトを見たか、何をクリックしたかといった画面上での行動だけが対象。これがケータイになると、ユーザーのパーミッションは必要だが、どのエリアで行動しているのか、どういうワンセグ番組を見ているのか、どういう買い物をしているのか…。ポテンシャルとしては、そういうことも含めて行動ターゲティングのパラメーターに入れられる。パソコンよりも的確な広告提示などが可能になると思う。

 逆に的確な提示ができるようになれば、パーミッションを与えてくれるユーザーも増えてくるだろう。どれだけよい成功体験を積んでもらえるか、それを提供する会社が信頼できる会社かどうかということが大きなポイントになる。

マーケッターにとってのケータイの意義は。

 20世紀にできなかったこと、夢と思われたことが21世紀にケータイで実現するということではないか。例えば販売促進のために、商品を買ってくれた人すべてにプレゼントをあげるといったことはなかなか難しかった。発送費とか、購買の確認など、非常にハードルが高い。単価が100円、200円といった商品ではとてもできなかった。

 それが、ケータイサイトにアクセスして商品シールなどに印刷したシリアル番号を入力してもらえば、Flashのゲームや待ち受け画像などを全員にあげられる。はずれた人にも、きちんとフォローできる。

 日本コカ・コーラの事例のように、商品プレゼントのケータイクーポンをターゲットユーザーに送ったり、ワンセグ放送を使って会員化されていないユーザーに配信したりすることもできる。やりたくても費用がかかりすぎてできなかったことが可能になる。このように、20世紀の非常識が、21世紀には常識になる。2008年がブレークの年になるかと思っている。

青少年に対する“有害サイト”フィルタリングサービス原則加入の影響についてはどうか。

 影響は未知数だ。当社の顧客企業でいうと、18歳以上を対象にしているところが多い。飲料や食品などで18歳未満をターゲットにしているところもあるが、逆にホワイトリストで認定されたり、ブラックリストの対象になったりしなければ、安心できるお墨付きの広告媒体、企業サイトということになる。短期的には誤解など問題はあるかと思うが、怪しいところは淘汰され、より健全な市場になっていく。中長期的には、プラスの要因が大きいと考えている。

ディーツーコミュニケーションズ 代表取締役社長
藤田 明久(ふじた・あきひさ) 氏
1965年生まれ。91年慶応義塾大学院修士課程修了後、電通に入社。新聞局で新聞のデジタル化に携わる。96年サイバー・コミュニケーションズの設立とともに出向し、取締役に就任。2000年ディーツーコミュニケーションズ設立に伴い同社に出向し、社長に就任。現在に至る。

(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2008年2月26日)