インタースパイア 代表取締役副社長COOの手嶋浩己氏
インタースパイア 代表取締役副社長COOの手嶋浩己氏
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 インタースパイア(東京都港区)は、ケータイ分野のメディアレップ、メディア運営、EC(電子商取引)、ソリューション事業を手掛けるベンチャー企業。代表取締役副社長COOの手嶋浩己氏に、最近のケータイマーケティング事情と、同社が手掛ける動画広告のアドネットワーク「クチモバ」について聞いた。
(聞き手は杉本 昭彦=日経ネットマーケティング

最近のケータイマーケティングをどう見ているか。

 2007年から広告主、マーケッターの活用法が変わってきた。モバイルが「メディア」として使われるようになった。

 広告主は以前、モバイルのキャンペーンについては(会員獲得などの)成果だけを求めていた。モバイルサイトも、各10万~20万人の会員を抱える懸賞サイトばかりで、広告会社がそれらをかき集めて提案していた。広告主はサイトの一覧表を見ても媒体名は見ていなかったし、見ても名前も知らない媒体ばかりだった。

 もう一つ、大手になるほど「ケータイで何か変わったことをやりたい」として、実験的な試みが多かった。今も続いている面もあるが、ケータイに対する幻想があった。特に紙メディアとの連動、位置情報との連動が注目された。その二軸で、モバイルマーケティングが活用されてきた。

 それが「モバゲータウン」「@cosme mobile」「mixiモバイル」など大手サイトが出たことで変わった。媒体を選定するというマインドが出てきた。特に注目を浴びたのがモバゲータウンで、単にバナー広告を載せるだけでなく、タイアップで面白いことをやりたいという機運が盛り上がった。そのため従来、50万~100万円だったモバイルマーケティングの予算が、大きいものでは3000万~5000万円で数十万人の会員を獲得するような規模になった。そうして、我々や広告代理店も積極的に取り組むようになった。

一方、上場企業のケータイサイト開設率は10数%という調査もある。

 確かに、持っていない企業はまだ多い。特にキャンペーンサイトは持っているが、コーポレートサイトは持っていないことが多い。キャリア別、端末別に対応する必要があるのも理由の一つだ。ただ、NTTドコモとグーグルの提携などで、検索エンジンが使われる機会が増えており、キャンペーンや企業名で探されるケースも増えているはずだ。企業にとって、それを取りこぼすことは機会損失になるのでこれからは増えるはず。中小企業向けには無料でケータイサイトを作成できるサービスもある。

 一方、Flashでデザイン性の高いサイトを作り込むケースも増えている。従来はFlashで作るとアクセスできるユーザーが減ってしまうと考えて、消極的な企業が多かった。最近では、モバイルキャンペーンでは高機能な端末を持つ先進ユーザーにターゲットを絞ろうと考える企業も増えてきた。

インタースパイアで注力しているサービスは何か。

 当社は大手代理店と取引が多いので、モバイルでは成果報酬型広告はもちろんだが、ブランディング用途を根付かせるために動画広告に取り組んでいる。

 当社が手掛ける「クチモバ」は、(「デコとも」「F★ROUTE」「GREE」「girlswalker.com」など)約30サイトが加盟するアドネットワークに動画広告を配信できるサービス。各サイトが公表している会員数やユニークユーザー数を足していくと数千万人規模に達する。

どのような活用例が多いのか。

 広告主の約6割は大手レコード会社。残りが飲料メーカーなどの一般企業や、コンテンツプロバイダーなど。CDシングルの市場が「着うたフル」に移る中、レコード会社はモバイルでプロモーションしたいというニーズが高い。

 そこでプロモーションビデオを30秒程度流して、着うたの購入につなげている。すでにビデオを持っているので制作費もかからない。一方、広告を掲載するサイトにとって音楽のプロモーションビデオはコンテンツの一つのように扱える。

 昨年デビューしたSoulJaは、クチモバなどモバイルのプロモーションで大きくブレイクした。CDシングル発売の1カ月前にリリースする着うたのキャンペーンを、2007年7月からクチモバで実施。SoulJaとしては初めて着うたランキングやオリコンのランキングに入った。キャンペーンは4回延長された。そこから大手レコード会社にクチモバの活用が広がった。

利用料金はどれくらいか。

 クチモバの動画紹介ページを見るごとに20円、実際に動画を視聴すると20円が加算される。200万円を上限予算とする広告主が多いが、そうすると3万~4万回動画が視聴されることになる。

 広告単価は、モバイルの検索連動型広告の一般的なクリック単価となる30~40円程度から算出した。ただ、クチモバはサイトに誘導する広告ではないので比較はしにくい。どちらかというとタイアップ広告や雑誌広告、屋外広告などと比べられる商品だ。

クチモバを利用する企業は動画を制作する必要がある。

 モバイルでは、待ち受けFalshに力を入れる一般企業が多い。そこで、待ち受けFlashやFlashゲームなども流せるようにしている。また、Flashゲーム、待ち受け、デコメ、Flashムービーなどの制作を請け負える体制を整えている。

クチモバは名称から推測すると、クチコミ効果を期待したサービスだったのではないか。

 モバイルの場合は、端末で動画を再生して見せ合うリアルのクチコミ効果がある。ただ、その効果はなかなか把握しにくい。一方、モバイルではパソコン向けサイトのように動画のURLをブログに張り付けるような環境ではない。現在は、クチコミは矮小(わいしょう)化して考えられていると思う。ブログに張られることがクチコミではない。話題になることが広告の効果になるようにしたい。

今後の課題は?

 広告主の業種を多様化させたい。レコード会社は年末に新譜が集中するなど季節要因がある。一般企業からの受注を増やすために、配信するコンテンツをより安価に制作できるような体制を整えたい。

 また、広告主の需要に応えられるようにアドネットワークのメディアの拡充も必要。ただし、大手広告主も安心して活用できるよう、一線を引いて追加している。ある程度の規模感があること、大手広告主が買いたいと思うこと、動画に適していることの3条件を設定している。

 クチモバのアドネットワークの品質は動画を見てもらう確率にある。動画サイトは規模が小さくても入れるようにしている。サイトによってダウンロード率の違いが如実に出る。貴重なデータなので、今後はそれを基にメディアにさまざまな提案もできると思う。