ケータイのYahoo!になる,検索エンジン事業も展開

ゲームやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を提供してきたケータイサイト「モバゲータウン」を、総合ポータルサイトにするという。企業にとっても効果的な広告媒体となったが、一方で青少年へのフィルタリングの原則適用により、18歳未満の多くのユーザーがサービスを利用できない事態に陥る。事業の現状と今後の対応を南場社長に聞いた。

2008年1月に、モバゲータウンを総合ポータルサイトにしていくと宣言しました。

 モバゲータウンは、もともとゲームとSNSで始まりましたが、どちらもコミュニケーションというか、遊びのジャンル。それだけでは短期的に終わる可能性があります。そこで遊びや、つながる喜びがあると同時に、日常の役に立つもの、不可欠なものとして生活に食い込んでいかないといけない。モバゲーを、一時的なもので終わらせたくないということです。

 そのため「Yahoo!」のビジネスと同様に、ニュース、天気予報といったサービス・情報群を持つプラットフォームとしてモバゲーを拡大していく。パソコンにおけるYahoo!の位置づけは素晴らしいと思っていて、これは「使って常識」という世界。そういう位置づけに(ケータイの世界で)なりたいと思っています。

 それに、何といっても検索機能です。2007 年10月にモバゲーに導入して、最初はどうなるかと思いましたが、検索件数もユニークユーザー数も、今は当初の10倍くらいに拡大しています。ものすごい右肩上がりになっていて、非常に楽しみです。

ただ、検索機能の自社開発は大変では。

 我々の優位性の一つは、優秀なエンジニア。もう一つは、モバケーは自社のサービスですので、トライアルが自由自在にできること。こうした試行錯誤のベースがあるため、進歩のスピードが断然速い。

 わが社でコアとなって開発しているのは3人。しかし、グーグルも今では何千人が開発していると言われていますが、最初に感動的な検索エンジンを出したときは、たった2人です。我々は、発想で勝負できるところでは負けないと思っています。

 例えば機能面でいえば、よく検索されるサイトのヒット率は非常に高い。また検索結果の表示では、Web、ブログ、動画、静止画、ニュースと、カテゴリーが分かれて出てくるので、ユーザーからは一覧性があって分かりやすいと評価されています。

 検索エンジンはモバゲーだけに閉じているものではないので、今後いろいろなポータルサイト、携帯電話事業者さんにも使っていただけるように交渉していきます。我々は検索連動型広告のマッチングエンジンは持っていないため、モバゲーの検索エンジンに、例えばオーバーチュアさんのマッチングエンジンを入れ、それとポータルサイトと、3者で収益を分け合うビジネスモデルを取ります。

南場 智子(なんば・ともこ) 氏
撮影:山田愼二

現時点でのモバゲーの収益構造は。

 まず、純粋な広告&タイアップ収入があって、それが2 割強で推移しています。2 番目に、アバター(ネット上のユーザーの分身)に連動したアフィリエイト。ユーザーはアバターなどを購入できる「モバゴールド」(モバゲー内の通貨)を手に入れるためにスポンサーのサイトに登録するのですが、そのスポンサーサイトからの広告収入です。3番目は、ユーザーが直接アバターを買うというもの。現在はそれぞれ22%、36%、42%という比率になっています。ポータルとしては検索連動型などの広告収入を増やしていくことになりますが、アバター関連の収入も引き続き最大化していきたいと考えています。

日本コカ・コーラなど多くの企業が、モバゲーをプロモーションなどに活用し始めています。

 広告主さんは、万々歳といったところではないでしょうか。非常に効果があります。だからリピートにつながっている。

 まずユーザーの誘導量で言うと、大手クライアントなどでは相当な量です。サーバーは大丈夫ですかと聞くと、大丈夫ですよと答えられますが、ほとんど1日目に倒れてしまう。誘導量で見ても効果は十分。加えて、ブランディングの効果もある。また、リアルの店舗に行って何かをすると、モバゲーのプレミアムアバターがもらえるといった活用もできるのですが、そうすると物理的に膨大な数の人が動きます。

既に始まった青少年へのフィルタリングサービス原則適用への対応が、最大の課題といえそうです。

 我々は、アダルトサイトや自殺サイト、本当に質の悪い出会い系サイトなどから若いユーザーを守っていくというフィルタリングの概念には基本的に賛成です。ただ、今は原則として掲示板を持つサイトは、一律に除外されます。例えば、生徒が使っている、先生の掲示板さえ見られなくなる。

 モバゲーの会員865万人(2007年12月末)の中では、29%くらいが10代で、その年代の5~6割(16~17歳の場合)がモバゲーを使っているという実態があります。そこにユーザーが意思表示をしないまま、原則フィルタリングサービスがかかると、毎日使っていたモバゲーも使えなくなります。若いユーザーにとって影響は甚大です。

 今の形での原則化に対しては、やはり疑問を抱かざるを得ません。ただ、それを言う前に、モバゲーで問題があったとの報道はあったわけですから、まず自分たちのサイトの健全性の強化に最善を尽くす。そこが経営としてはトッププライオリティです。

では、どのような対応を取っていくことに。

 基本的には「パトロール」を強化しています。まず全件書き込みを見る、スクリーニングをする際のシステムを高度化しました。また、300 人体制と言っていますが、最大300人のチェック体制を整えて、これまで以上にパトロールを濃密にやっていきます。

 その補助として2007年12月20日からは、18歳未満の会員は3歳以上離れている人と「ミニメール」ができないようにしました。これがすごく効いていて、今のところその導入以降に、大きな事故は報告されていません。まずは、こうした健全化策を強化していく。完全ということはないので、継続的に状況を見て改善し続けるということです。

 その上で、現在(フィルタリングの対象外となる優良サイトを選定する)第三者機関が設立されていますので、そこで認めていただきたいと。さらに時期などはまだ分かりませんが、携帯電話事業者に認められなければならないので、いずれにしても良いものにしていかなければならない。

 ただ、いくつかの事故が報道される一方で、モバゲーの中でのやり取りを見ると、本当に励ましあったり、教えあったりと、非常にいい文化なんです。小説などもあり、いろんな意味で新しい若者文化だと思います。それは日本で、最先端で切り開いているもの。こうした文化をつぶさないためにも、モバゲーを(青少年が)アクセス可能なサービスにするということに、全力を尽くす義務があると思っています。

ディー・エヌ・エー 代表取締役社長
南場 智子(なんば・ともこ) 氏
1962年新潟県生まれ。86年津田塾大学学芸学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。90年ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。99 年ディー・エヌ・エー(DeNA)を設立し、代表取締役に就任。現在に至る。2003年内閣IT戦略本部員など歴任。

(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2008年1月28日)