モトローラ執行副社長兼ホーム&ネットワークス・モビリティ・ビジネス最高責任者のダニエル M. マローニー氏
モトローラ執行副社長兼ホーム&ネットワークス・モビリティ・ビジネス最高責任者のダニエル M. マローニー氏
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米国の大手通信機器メーカーであるモトローラは,携帯電話事業と企業向けの通信ソリューション部門を切り離すことを決めた。通信/ケーブル事業者および家庭向け事業部門が存続会社となる。4月中旬に来日した同部門トップのダニエル・マローニー氏に分社の背景や同事業部門の今後の方針を聞いた。

モトローラは,社内の携帯電話部門と通信ソリューション部門を分社化すると発表した。それぞれの事業部門をどう位置づけ,今回の結論に至ったのか教えて欲しい。

 現在,社内には大きく3つの事業部門がある。携帯電話,企業向け,そして私が統括するホーム&ネットワークモビリティ事業である。実は,1年前に組織構造を変えていた。この組織変更は,無線通信と有線通信が融合するというコンセプトに基づいたものである。この結論に至るまで,世界中の事業者や顧客がどこに向かうのか検討した。今後,メディアはますます“個人化”する。当社は,通信事業者あるいは消費者がこうしたメディアの新しい体験を加速させるお手伝いをしようということになった。分社化は,その延長にある。

 今後の社会は,消費者が決める。具体的には,3つのトレンドがある。第1のトレンドは,ビデオが一段と普及すること。第2のトレンドは,メディアの体験は個別化されること。これは以前から言われていることだが,テレビは“ゴールデンタイム”から“マイタイム”になり,テレビ視聴は自分でコントロールする。第3は無線ブロードバンド。消費者は,どこでもいつでもメディアを楽しめるようになる。日本はモバイルの最前線にあるが,無線ブロードバンドの普及でもっと進む。

分社化すると,こうしたトレンドに追従しやすくなるのか。

 完璧な組織をつくるのは難しい。今回は,「顧客は,将来をどう考えるのか」を頭の中で再現することを意識した。インフラの面では,無線と有線はシームレスに体験できるのが望ましい。端末の面では,どの端末でもアプリケーションにアクセスできるようにしたい。この考えの下,無線と有線を統合するインフラのもとで,デバイスを切り離すのがいいという結論に至った。

基本技術はある,足りないのはビジネスモデル

3つのトレンドを実現する上で足りないものはあるのか?

 既に基本技術はあるが,すべてが商用化段階にはない。例えば無線ブロードバンドではWiMAXは実用に近づいている一方,LTE(long term evolution)は初期段階にある。
 将来的には,技術は障害にならないと考えている。問題はビジネスモデルの欠如だ。エコシステムに多くのプレーヤが絡んでいるので,ビジネスモデルが成立しないと実現が難しい。

モトローラはいいビジネスモデルを持っているのか?

 アイデアはいろいろあるが,コンテンツ提供者を魅了するような完全なビジネスモデルはない。消費者の要求も違うので,ビジネスモデルは国によって違う。世代によっても異なる。若い人はメディアを与えられるよりも,自ら選び取っていくことを好む。

ビデオで成功している事業はあるのか。

 ビデオ事業をみたとき,米国はほかの地域と比べて特殊である。消費者は,ビデオサービスに多額の料金を支払うことをいとわない。それでも,天井はある。
 現在は,モビリティにお金を払う時代だ。過去にはできないことができるようになったからだが,時間が経つと変わってくる。固定音声は今やベーシックなサービスになって低廉化した。新しいサービスを追加していかないと,低価格化の流れは止まらない。

モトローラとしては,今後どのような提案を考えているか。

 日本のケーブル会社では,DOCSIS(data over cable service interface specifications)3.0に準拠したソリューションで高速サービスを提供するようにする。これはほかの各地にも波及する。通信事業者ではIPTVが注目になる。いずれも,ビデオをサービス・ポートフォリオに加えていこうという動きだ。
 有線と無線の融合については,今年後半,家庭向けのソリューションを提供しようと思っている。携帯端末と有線用端末を融合し,ビデオ,音声など複数のメディアを扱えるものだ。
 今後,10年~15年を見た場合,有線,無線に関わらず世界中の通信事業者が,WiMAXやLTEといった無線ブロードバンドに注目するだろう。

WiMAXとLTEはどう使い分けることになるのか。

 伝統的な携帯電話事業者であれば,既存のインフラからのシームレスな移行が用意されているLTEが有力な選択肢になる。ただし,LTEの商用化は2010年くらいになる。WiMAXは今すぐ使える無線ブロードバンドという位置付けだ。両者は共通点が高いので,メーカーとしては開発投資が抑えられる。
 もう一つの選択肢であるUMB(ultra mobile broadband)は,技術に対する関心が薄れているので投資していない。今後の流れを見て,どこかで牽引力が生じればその時点で改めて精査する。私個人としては,幅広く受け入れられるとは考えていない。