リアルとネットをつなぐ,生活圏情報で新ビジネス

ヤフーは2008年1月1日、ポータルサイト「Yahoo!JAPAN」のトップページを全面的にリニューアルした。ユーザーの利便性を向上し、中長期的に広告売り上げを拡大するのが狙いだ。2007年には検索連動型広告を手がけてきたオーバーチュアを子会社化するなど、広告事業の基盤整備も進めている。今後どのような展開を考えているのか、その戦略を聞いた。

リニューアル後のユーザーの反応はどうか。どのようなメディアになることを目指しているのか。

 リニューアルについては、使い慣れたものがいいという人はいるが、3日も使うと慣れてくる。まだ利用状況を見ている段階だが、いろいろなところが見られている。今はどこに何があるかを探している段階かもしれない。メディアとしては、利用者のニーズに的確に応え、幅広いユーザー層に使ってもらいたい。基本的には利用者数を増やす、どれだけ多くの人の役に立てるかを重視している。

 ただ、このように万人向けにコンテンツをそろえていることが逆に弱点になっているかもしれない。特定の人の満足度を上げることが二の次になりやすい。ヤフー単独でできることは限界があるので、こうした分野では、ほかの企業と提携していくことになる。

自社で考えている新サービスは。

 力を入れようと思っているのは「生活圏情報」。今のヤフーのサービスは全国版といえる。ところが、実際の生活の中で言うと、自分の生活圏にかかわる情報がより必要なのではないだろうか。例えば東京・六本木、京都、北海道といっても、旅行者として必要な情報と、生活者として必要な情報は異なる。旅行では年に数回しか行かないが、生活圏には職場、経路の駅なども含まれ、その情報は毎日必要になる。画面の設計も変わってくる。現在、地域事業部を中心に見せ方を議論しているところで、こうしたサービスを2008年中に出せるだろう。いろんなサービスの組み合わせで便利にできればと思っている。

どのような生活圏情報を提供していくのか。

 生活圏で一番必要なのは地域のお店の情報。理想でいえば、商店街の店の情報が網羅されていて、今日の特売情報まで載っていると便利だと思う。

 生活圏となると、ネットがリアルとどのようにつながっていくのかが重要になると考えている。検索連動型広告、EC(電子商取引)にしても、今のインターネットのサービスはネットに閉じている。今は検索結果に出るためには、Webサイトがないといけない。小さなお店にとっては、サイトがなくても必要な情報さえ載っていればいい。例えば、売り上げが足りないときにタイムセールの情報を出せるようになれば、ネットのサービスがネットの外に広がる可能性がある。

 こうしたサービスを運営するために、地域の企業から広告を募る。1 件当たりの広告料は少ないが、数は多い。ネットの広告の場合は、既存のチラシや新聞の3行広告よりさらに細かいところを掘り起こせるため、規模は大きくなると思っている。

井上 雅博(いのうえ・まさひろ) 氏
写真:稲垣純也

検索連動型広告のオーバーチュアを子会社化したが、広告事業の今後の展開は。

 我々には、WebサイトとしてのYahoo! JAPANの拡大とともに、パートナーにいろいろなプラットフォームを提供しながらネット全体に事業領域を広げたいという「オープン化」の狙いがある。広告はYahoo! JAPANだけでなく、ほかの媒体、サイトでの配信や販売を手伝うことができる。オーバーチュアはもともと、ポータルサイトの「Excite」やSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「mixi」などの広告配信を担ってきた。我々はバナー広告の配信の手伝いをしてきており、この分野で永遠に投資を続ける運命にある。他事業者に、あるものを使ってもらえればいいと思っている。

ネット広告の中で注目しているものは。

 最近は動画広告が出てきている。非常にコストがかかるモデルで、まだどうマネタイズができるか未確立だが、今年、来年と試行錯誤を続けていく。

 動画広告ではいろいろなところと競争することになるが、動画投稿系ではコンテンツが2 種類あると思っている。個人が撮ったものでみんなが見て面白いものと、どこかで放送されたものを勝手に載せてしまうもの。前者はこれから洗練していく必要がある。はやっているのは違法にコピーして載せてしまうものだが、それは時間の問題で、テレビ局が番組配信に活用するようになれば、違法状態がなくなると思っている。テレビ局が合法的にコンテンツを流すときが、動画広告が有効になる時だろう。

モバイル展開についてはどうか。

 現状の使われ方で見ると、十数年前のパソコンのネットが始まったときとは様子が違う。当時は良いもの、悪いものが一斉にWebに載ってきたという感じで、だから検索が最初に重要になって、いろんなサービスの利用が広がっていった。モバイルの場合は公式サイトがあるので、「あらゆるもの」が載ってはいない。だから検索の必要性が低くなり、代わりに特定の単一のアプリケーション、mixiや「モバゲータウン」のゲームが単体で使われることになる。

 ただ、10 年、15 年のスパンで考えると、モバイルネットも今のパソコンのネットと同じぐらいになる。SNS やゲーム以外の使われ方も増える。Yahoo!JAPANでは10年、15年先を見て、「everywhere戦略」で全部のサービスをパソコン以外からも使えるようにしようと考えている。もちろん、その間に特定のよく使われるサービスがあればやっていく。

SNSでは先行したmixiなどを追わないのか。

 SNSについての見方は二つある。一つは、日記帳や交換日記の機能で、この分野はなかなか追いつくのが大変だ。我々にとってより重要なのは、もう一つの、人と人とのネットワーク図、友達関係図みたいなものだろう。我々の方が利用者数は多く、その友達関係図は様々なサービスで活用できる。そこの部分を徹底的にやろうと考えている。

 それも2段階あり、まず全部のサービスにCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)の機能を入れていく。もう一つは、CGMを人の単位で束ねること。レストランの批評にしても、全然知らない人と友達が批評するのでは、信頼度が違う。今もいくつかのサービスにCGM機能は入っているが、友人関係にひも付けしたものを今年中に出したい。

 先ほどの生活圏情報にしても、網羅性を高めるためにはCGMが必要。「ヘッドコンテンツ」に対する「テールコンテンツ」が重要になる。ただ、テールはプロの記事に比べると品質・信頼性が劣る。数も多くなるので、それをどうやって選んで見せるか、そのCGMコンテンツのフィルタリングや順位付けに、友達関係が使えると見ている。そうすればCGMでも広告が取りやすくなる。ただ、これは壮大な計画。これから実現していくことになる。

ヤフー 代表取締役社長
井上 雅博(いのうえ・まさひろ) 氏
1957年東京都生まれ。79年東京理科大学卒業後、ソード電算機システムに入社。87年ソフトバンク総合研究所、92年にソフトバンクに移り、96年1月のヤフージャパン設立に参画。同年7月に代表取締役社長に就任し、現在に至る。ソフトバンク取締役、オーバーチュア代表取締役社長を兼務。

(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2008年01月08日)