検索エンジン大手のグーグルは、携帯電話向けコンテンツ連動型広告などの新サービスを続々と投入している。動画投稿共有サイトの「YouTube日本版」で広告配信の試験サービスも開始した。今後、企業のマーケッターに対してどのような新サービスを提供していくのか。日本における事業戦略と、2008年のネット広告市場の見通しなどを聞いた。
ケータイ向けコンテンツ連動型広告を新たに始めるなど、日本でモバイル分野に力を入れている。
2007年は、モバイル向け検索連動型広告に続いてコンテンツ連動型広告を10月に始めました。これによりティーンエージャーを中心に、ケータイでしかインターネットを利用していないユーザーにも日本の広告主がリーチできるようになりました。
グーグル全体にとって、モバイルというのは今後の重要な戦略分野です。日本では漢字の「携帯」からカタカナの「ケータイ」になり、今、モバイルと呼ばれてきている。我々は単に電話機にネットの機能が付いたという進化だけにとどまらず、もう少しコンピューター的なものを含めてモバイルと呼んでいる。そうなってきたときに、早晩デスクトップとモバイルを分ける意味合いがなくなる時代が来るかもしれないという想定で、我々はモバイルという呼び方をしている。こうした中で2007年11月に、モバイル端末用のオープンプラットフォーム「Android(アンドロイド)」の開発を発表しました。最初の端末は米国で2008年下半期にも商品化される見込みです。
広告サービスの面では、「今、あなたに」というところを狙いすました検索連動型やコンテンツ連動型の「AdWords」を提供してきましたが、さらに「ここ」というところをモバイルが切り開いていくのだと思います。つまり「今、あなたに」から、「今、ここで、あなたに」です。移動しているユーザーを対象に、「ここ」という場所の部分も追求していくことになる。日本はケータイ先進国であるということで、世界的に先行して様々な取り組みをしていくことになっています。
「ここ」を生かした広告とは。
動いている人たちに「ここ」の情報をどう提供するかは、ユーザーが検索の中で地名を入力したり、地図から検索したりしている時に表示するなど、いろいろなことが考えられます。ケータイ端末の位置情報機能を利用することも考えられますが、「ここ」については引き続きユーザーに入力・選択してもらうといったところから入る。我々はケータイというより、デスクトップからモバイルへという流れでやってきているので、そうしたアプローチになります。
「明日、渋谷に行くから」という場合ならデスクトップでの検索だと思いますが、ケータイでは既に「今、渋谷にいる」といった場合、広告のクリック率にこれまでとは違った傾向が出始めています。広告主の業種、業態によって変わりますが、デスクトップとは明らかに違う反応になる。こうして広告が、例えば「Googleマップ」などと連動し始めるわけです。
マーケッターはYouTubeにも注目しています。
写真:山田愼二 |
YouTubeについては、著作権問題でご迷惑をおかけしてきましたが、(著作権を保護するための)日本の権利者団体の方々との交渉の行方も見えてきた。お墨付きを得られるとなると、当然それはYouTubeがプロモーショナルな意味を持つと同時に、広告が出始めるということになります。こうした中で2007年11月に、日本でもYouTubeで広告配信テストを始めました。メニュー別に広告配信の効果と傾向を測定することが目的です。さらに今後は、ケータイ上での新しい広告というものも始まってくると思います。
また、日本でも企業のマーケッターがYouTubeを広告配信プラットフォームとして活用する例が出てきています。今後はこうした動きが加速するとともに、マーケッターが1ユーザーとして消費者の作るネットワークやコミュニティといったCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)に参加する時代になるかもしれません。既に消費者が企業の“マーケット担当者”ともいえる状況になりつつある中で、マーケッターはどこでどう見込み客と出会うのか。そうしたことを考えた場合に、CGMの世界に自ら参加して出会うということが避けられなくなってくるのだろうと思います。
行動ターゲティングなど、新たな広告サービスの中で最も重視しているものは。
何といっても、モバイルが1位です。行動ターゲティングについては、ほかのいろいろな方々が工夫されていますが、我々としては正直言って、「そうなのかなあ」という疑問を持っています。「こういうことをされている方だから、これが…」といったことは、さて本当にどれだけ絞り込めるのかなと。
もちろん、ネット広告の効果を上げる努力をされることは我々も大歓迎なのですが、我々としては、どちらかというと「今、あなたに」「今、ここ、あなた」というところをまずは追求したいと思っています。
消費者向けでは、検索サービスの利用者数で「Yahoo! JAPAN」の方が優位に立っているが。
一時で言うと、ホームユースのところはYahoo! JAPANが60%、我々が30%、そのほかで10%といった時期があったと思います。ところが、2006年からGoogleマップや「Google Earth」、さらにYouTubeといった、分かりやすいサービスが消費者にリーチするようになって、急速にホームユースの世界にも利用が広がりました。調査によってばらつきはありますが、今は55%対35%くらいまで来ているのではないでしょうか。また、オフィス向けでは我々が60%、Yahoo! JAPANが30%といったところです。ただ、EC(電子商取引)などの「BtoC」の分野ではまだ20ポイントの差があるわけです。ホームユースのところは、もうひとがんばりかなと思っています。
編集部注)ネットレイティングスの調べによると、2008年2月のヤフーと グーグルの検索サービスの職場からの利用者数(Workパネル)はヤフーが やや多く、ページビューではグーグルがやや多い。
2008年のネット広告の見通しは。
検索連動型広告については、自動車とか一般消費財の広告主の利用が増えるだろうと見込んでいます。これは検索連動型広告が一般化し、テレビCM連動型広告も一段落して、新しい使い方となる「サーチブランディング」が広がるとみているからです。一般キーワードを検索しているユーザーに対して、社名やブランド名を露出して、そこにブランディング価値を見いだすというものです。
もう一つが、YouTubeを中心とした動画広告の市場の拡大。2007年に始めたガジェット広告(各種Webサイトに張り付けられるインタラクティブ広告)でも、動画が出せるようになっているため、動画広告が一般化することが考えられます。テレビCMとは違う新たな広告の世界というものを、作り出していけるのではないかと考えています。
2008年は、引き続きモバイルに加え、YouTube、それに検索連動型広告がブランディング用途で盛り上がるのではないかと思っています。
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(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2007年10月30日)