インターネット上で売れないものはない,モバイルで新顧客

2000年に日本のEC(電子商取引)市場に参入し、「品ぞろえ」「価格」「利便性」の三つを追求する戦略で顧客満足度を高め、成長を続けているアマゾンジャパン。2007年10月に千葉県八千代市に新物流センターを開設するなど、事業拡大のための基盤整備を進めている。同社社長のチャン氏に、今後のAmazon.co.jpの事業計画や市場の見通しを聞いた。

2007年10月に新たな物流センター「アマゾン八千代FC」を立ち上げた。その狙いは。

 新しい物流センターは、我々の戦略を今後も継続していくためのものになる。具体的には、「より豊富な品ぞろえを提供する」、「より早くお届けする」という二つの戦略を担う。我々のビジネスのベースとなってきた書籍やCD/DVDよりも大きな商品を扱えるように設計されている。

 我々は2003年に電気製品の販売も始め、その後も商品カテゴリーを増やして、スポーツ用品やホーム・キッチン用品、玩具、ベビー用品といったものも扱っている。こうした商品の扱い方は、それぞれで異なる。例えばテレビや自転車といった大きな商品では特有の取り扱いが必要になり、そうした商品を扱いやすくするために物流センターを新設した。

どこまで商品ジャンルを広げていくつもりか。

 アマゾンのミッションは、地球上で一番の品ぞろえを顧客に提供するということ。このため、インターネットですべてのものを提供できるようになるまでジャンルを広げるということになる。長期的に技術も進化し、消費者の動向も変わっていく。こうした変化に伴って、何でもオンラインで売れる、買えるようになると考えている。

 現在Amazon.co.jpには14のストア(商品領域)があるが、米国に比べて、食品などカバーできていない領域もある。日本でもこうした領域を拡大し、同時に書籍など既存の領域でも品ぞろえを増やす。

 ただ、我々は従来型のオフラインの小売りに参入する意思は全くない。今後も、オンラインにおけるショッピングのシェアを高めることを目指す。

品ぞろえを増やすために「マーチャント@amazon.co.jp」を2007年4月に開始した。出店する企業を選定して参加を呼びかける招待制ECモールともいえるが、その選定基準は。競合はしないのか。

ジャスパー・チャン 氏
写真:稲垣純也

 我々にとって最も重要なのは、Amazon.co.jpの品ぞろえを強化するということ。この店舗、この商品を追加することで顧客の体験が改善されるかということを選定基準にしている。例えば、複数の店舗で同じ商品を扱った場合、ある店舗で商品の在庫が無くても、ほかの店舗に在庫があれば、Amazon.co.jpとしてより高い顧客満足度を得ることができる。

 我々の持つビジネスモデルは非常に複雑で、ほかで行われているようなビジネスモデルとは異なる。我々自身が小売りを手掛けているため、出店企業と競合する可能性がある。しかし、我々の目的は、まさしくその競合する、競争するというところにある。そうすることで、顧客に最も良いもの、最も安い価格のものが得られるということを保証できるようになる。

顧客数はどの程度まで増えたのか。最近はポイント制度の導入など、顧客の利便性を高めるための対策も相次いで打ち出しているが。

 利便性は、日本市場で特に重視されていると考えている。ポイント制度のほかにも、様々な方法で利便性を高めてきた。例えば6月には、顧客がより早く商品を受け取れる会員制プログラム「Amazonプライム」を開始した。このプログラムは、米国では2年前に導入されたが、非常に良い結果が得られている。日本でもそれと同等以上の結果が得られるのではないかと楽しみにしている。

 ただ顧客数については、現在は公開していない。古いデータで申し訳ないが、2006年3月時点で、過去12カ月以内に1回は購入したアクティブユーザーの人数が600万を超えていた。それ以降も顧客数は継続して増えている。品ぞろえの強化、価格の低減とともに、利便性を高めたことが要因だ。

モバイル展開については、どう考えているか。顧客層などパソコン向けとの違いもあると思うが。

 2001年にモバイルサイトを開設した。第3世代携帯電話(3G)対応で始めて、そこから進化しているわけだが、同時にモバイル市場そのものも非常に早いスピードで発展してきている。そこで我々は、モバイル市場に関してはさらに投資する必要があると考えている。人的投資とともに、技術に関する投資もしていく。モバイルでの売り上げは大きく伸びていて、アマゾンジャパンにとって非常に戦略的な意味がある。新しい顧客を獲得するためにも、非常に興味深い分野だ。

 顧客層について我々は年齢に関するデータを持っていないが、外部の調査によると、amazon.co.jpのパソコン向けサイトでは大半が30~40歳代で、男性の方が多い。一方、モバイルでは10~20歳代の顧客が多い。モバイルで若い年齢層を獲得するという結果になっている。

Webサイトでは、購入実績データを活用した商品のレコメンド(推薦)機能などを提供している。また、検索履歴を使った将来の売れ筋予測なども可能と思うが、どのようなデータ活用をしているのか。

 我々のパーソナライゼーション、レコメンデーションの技術というのは、Webサイトのいたるところにちりばめられている。ここに対しては、さらに投資をしていきたい。例えば、我々はアルゴリズムを作っていて、そのアルゴリズムを使って顧客に様々なレコメンデーションの仕組みを作って提供し、実際に機能しているのかを検証している。今後も、このテストは継続して行っていく。

 また、将来の売れ筋把握という観点では、検索履歴よりも、より購入に近いところに目をつけている。例えば、我々には「予約注文」の仕組みがあるが、これはまさしく顧客が今後何を購入したいのかを示すもの。また、購入したい商品について顧客からメールで情報をもらう仕組みもある。検索履歴よりも、購入そのものに近いところのデータを使うので、より正確な情報になる。それを今後は、実際に行われた注文のデータと比較していきたいと考えている。

日本でのライバル、今後の課題は。

 「ライバルはどこ」という形で、我々は考えていない。EC市場は「Day One」。つまり、まだ始まったばかりの段階で、今後どうなるかはまだ分からない。ただ、この市場ではプレーヤーが増えることで競争が活発化し、それによって革新性も高まり、市場規模が拡大していくのは確かだろう。

 我々の日本での経験は7年程度で、カバーできていない領域も多い。そしてモバイルサイトや物流、パートナーなど、すべての面で改善すべき点がまだまだある。

アマゾンジャパン代表取締役社長
ジャスパー・チャン氏
1964年香港生まれ、カナダ国籍。86年香港大学工業工学部卒、キャセイパシフィック航空入社。87年プロクター・アンド・ギャンブル入社。90年カナダのヨーク大学でMBA(経営学修士)取得。2000年アマゾンジャパンに入社しファイナンス・ディレクターを経て、01年代表取締役社長に就任。

(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2007年9月28日)