イオンのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)戦略が新たな段階に入った。2005年にグループ会社のイオンクレジットサービスで25億円を投じて構築したデータ・ウエアハウス「ターゲットマーケティングシステム」に、分析するに足るだけの顧客データが蓄積されてきたからだ。イオンクレジットの会員や2007年に開始した電子マネー「WAON」の利用者など述べ約1800万人のデータを同社は有する。マーケティングに役立てるための商品コード体系の見直しも一段落したという。

 そこでイオンは2007年11月に「CRMプロジェクト」を発足させ、顧客データの分析に着手。2008年度は優良顧客の定義などに取り組んでいく予定だ。購買履歴とPOS(販売時点情報管理)データを組み合わせて顧客特性を分析したり、優良顧客を定義したりといった活動をしている。イオンのCRM戦略のキーパーソンである神谷一興CRMプロジェクトリーダーに取り組み状況を聞いた。

(聞き手は西 雄大=日経情報ストラテジー

2005年のデータ・ウエアハウス構築から2007年にCRMプロジェクトを立ち上げるまでの2年間は、どのような準備をしていたのか。

イオンでCRMプロジェクトリーダーを務める神谷一興氏
イオンでCRMプロジェクトリーダーを務める神谷一興氏

 そもそもPOSなど既存の各システムのコードは、データべースマーケティングを想定しておらず売り場ベースの分類になっている。例えば、マーケティングの観点から花粉症対策の商品の売り場を探したいとしても、空気清浄機は家電、のど飴は食品加工といったように売り場が異なるし、売り場ごとの分類方法がばらばらだ。

 そこで、ケタ数を合わせたり、コード分類を統一したりといった、「誰が」「いつ」「何」を買ったのか分かるようにするための整備が膨大だった。

顧客分析に取り組むクレジットカード会社や百貨店などは既に多くあるが、イオンの特徴はどこにあるのか。

 小売業を中核に、イオン銀行やイオンクレジットサービスといった金融業やサービス業などを展開している取り組みは日本では非常に珍しい。2008年度中には顧客データが述べ2000万人になるだろう。電子マネー利用者とクレジットカード会員の重複を含むものの、単純換算では日本の人口の約5分の1の購買履歴を我々は持つことになる。大きな顧客資産を持っていると自負している。

2008年度の活動はどのようなものになるのか。

 まず優良顧客を定義する作業を進める。LTV(生涯顧客価値)とポケットシェアの2つの指標を定義してイオングループへのロイヤルティーを測ることを検討している。LTVは一定期間における顧客ごとの損益を表わすが、店頭の購買履歴だけでなく、イオン銀行に預金があるのかどうかなど、グループのシナジー(相乗)を念頭に置きつつ定義していきたい。

 ポケットシェアとは、収入のうちどの程度イオンを利用してもらっているかの消費シェアを表わす指標だ。1年間といった「点」ではなく、5年間といったようにどの程度の期間で見るのかも決めなければならない。結婚を機にイオンのファンになって頂いて年間50万円利用してもらえるようになったり、長年ファンだったが子供が成長し夫婦だけとなった家庭が年間30万円の利用に落ちたりといったことがあるからだ。

分析した結果はどのように生かしていくのか。

 イオングループは幅広い業態に加え、店舗の大型化が進んでいるのに、どこに何があるのか顧客にまだ伝えきれていない。小学校の入学時にはランドセルやお母さん用のスーツ、学資保険を勧めるなど子供の成長に合わせた好循環を作っていきたい。そうすることで、生鮮食品などの日用品から家電製品まで扱っている総合小売業の強みが生きてくる。このためには、顧客がほしいと思うサービスや情報をタイミング良く提供する手法を検討していく。例えば、小さな子供がいる顧客には宅配サービス券や建物内にある遊戯施設のコインを提供するといったことだ。

 今回のシステムはポイントによる還元といった価格優遇による販促のための仕組みとは考えていない。顧客からの信頼を深めることを心がけてイオンのファンを増やしていきたい。