
>>前編
3月からNTT東西がNGNの商用サービスを始める。どのように見ているか。
NGNは電話事業者の発想で,21世紀の“キャプテンシステム”(注:1984年に当時の電電公社が始めた文字と静止画による通信サービス)と呼べるものだ。電話とインターネットの“いいところ取り”を狙っているようだが,基盤技術の哲学が違う以上,うまくいくはずがない。
映像配信がNGNの目玉サービスの一つのようだが,インターネット経由のテレビ向け動画配信サービス「アクトビラ」と何が違うのか分からない。インターネットの帯域は結構広いし,映像のエンコード技術が進んでいる。テレビ映像の配信に必要な帯域は6Mビット/秒程度だ。
セキュリティなど現在指摘されている問題は,インターネットの中でどのように努力すれば解決できるかを考えるべきだ。インターネットと全く違う哲学で次世代のネットワークを作るやり方は間違いだと思う。うまく動くのか分からないし,そもそもニーズがあるのかどうかも分からない。
ただ,今のところNGNに対する批判はあまり聞こえてこない。
![]() |
写真:佐々木 辰生 |
それは(NGNにかかわる)メーカーなどみんながもうかると思っているからだろう。
交換機をルーターに移行させる動きは,世界中で進んでいる。交換機とルーターの2重投資は避けたいし,今や交換機は売られていないからだ。
でも移行のときに,なぜもう一度電話の世界のように,データ通信の管理をしようという発想を持ち込むのかが分からない。結局,まず独占ありきといった発想で,インターネットが壊してきた垂直統合のビジネスモデルを捨てられない,垂直統合で全部の市場を取りたいという話なのだろう。それならばポータルサイトの「goo」などにもっと力を入れるべきだっだのだが。
NTTに同情すると,これだけ優れた通信インフラを整えている国は日本だけなのに,同業者などが変にNTTを追い詰めてしまったという側面はある。日本以外では通信産業は防衛産業だから,インフラ事業者の収益を圧迫しない形で作られている場合が多い。
IT業界のイメージが悪化している。最近は大学でも情報工学系の人気が低い。
情報系の学科で定員割れを起こしているのは日本くらいだろう。職業のイメージが悪すぎる。
やはり基本的に“手間賃”でお金が支払われるビジネスモデルがソフトウエア産業のすべてを悪くしている。価格競争で手間賃の競争になれば,実際の開発はどんどん“孫請けの孫請け”といった下請けに行く。そういう構造がIT業界が悪く言われる遠因になっている。
入札も知恵ではなく価格だけで決まっている。そうするとそれに対応するには,賃金の安い人を使わざるを得なくなる。
でもソフトウエアというのはある種の知恵だ。一つの知恵が世界を変えるという面白さがあるわけで,この点をもう一度考え直さないといけない。
例えば,Winnyにはいろいろ問題はあったが,世界的なレベルの発想であり技術だった。P2Pの一つのソフトウエアが通信を大きく変えた。本来ITはそういうことができる面白い世界のはずだ。
昨年12月に次世代の技術開発や人材育成を目指す「IIJイノベーションインスティテュート」を始めた。
IIJイノベーションインスティテュートに採用されれば,2年間お金をもらって,自由に開発ができる。2年後にIIJに残りたければ残ってもいい。IIJは開発環境としては良い方だから,若い人の能力を伸ばせると思う。
お金にしやすい技術だけではなく,すぐにはビジネスにならないが,その技術を10年かけて発展させたら面白い,というのでも構わない。とにかく,何か世の中を変えられる技術があるのに,変えようと思っていない人は変ではないか,という発想だ。
もし事業化したい技術があれば,ファンドも応援してくれる。だから若い技術者がたくさん集まってほしいと思う。僕が卒倒するようなアイデアを持って来てくれれば幸せだ。
電力消費を抑えるため,神岡鉱山の地下にデータ・センターを作る計画を進めている。
気温が14度くらいで安定している場所ならば神岡鉱山に限らない。探せば日本中にいくつもある。データ・センターの電力消費の問題は2002年ごろからずっと言っていたのだが,当時は誰も相手にしてくれなかった。最近になってようやく理解が広まった。
データ・センターのコストの6割は電力。毎回,サーバーを見るたびにぞっとする。全身が空調機のようで,騒音もひどく,耳栓をしないと作業できない。インターネットはとてつもなくエネルギーを消費する産業なので,地球環境保護の点からもいろいろな試みが必要になっている。
|
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年2月1日)