
国内インターネットの創世期から業界をリードしてきたインターネットイニシアティブ(IIJ)。最近は,MVNO(仮想移動体通信事業者)サービス「IIJモバイル」や,新技術育成プロジェクト「IIJイノベーションインスティテュート」などを展開している。同社の鈴木幸一代表取締役社長に,これらの活動に加えてNTTが進めるNGN(次世代ネットワーク)への見解を聞いた。
1月にNTTドコモのHSDPA(high speed downlink packet access)回線を利用するIIJモバイルを開始した。
無線はネットの使い方の自由度を大幅に高められる。IIJとしては使える携帯電話の回線はどんどん使って,その上で通信事業者が用意していない法人向けのソリューションを展開したい。
5~6月ころになるが,「SEIL」(注:IIJが開発したルーター)やゲートウエイなど,現在,固定系で持っているソリューションを無線にどんどん載せてゆく。
自宅でもイー・モバイルとNTTドコモのHSDPAサービスを使っている。これが十分に高速なので,DSL回線は必要ないと感じているほどだ。
無線に限らずネットワークを流れるトラフィックが急増している。インターネットの従量課金制に言及したが,その真意は。
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写真:佐々木 辰生 |
それは以前から言っていることだ。使ったトラフィックに対する負担をダイナミックにするのは悪いことではないと思う。
電力なら10アンペアを使う人と50アンペアを使う人を同一料金にすることはない。インターネットのトラフィックは急激に増大しているので,将来は何らかの対策が求められる。
もともとインターネットは不平等にできている。7%くらいの人がヘビー・ユーザーで,それ以外の人たちがヘビー・ユーザーの分まで料金を負担してインフラを支えてきた。しかし,多くのユーザーがたくさん使い始めると,この構図が成り立たなくなる。
インフラを運営するISP(インターネット接続事業者)の負担も非常に重い。いくつかのISPが料金を値上げしているが,この動きは今後も続くだろう。例えば「YouTube」などのサービスが広がると,IIJのネットワークも毎月10Gビット/秒くらいづつトラフィックが増える。国際線のバックボーン・ネットワークのトラフィックも増え,負担はますます重くなる。
ユーザーが使った量に応じて料金を支払ってもらうのは,現実的な策だ。そういう歯止めが利かないと,無限に無駄なトラフィックが増えていく。無駄なトラフィックが悪いとは言わないが,それは無料ではないはずだと思う。
トラフィックが増えたのは,動画の影響が大きいのか。
個人ユーザーでは大きい。法人ユーザーも動画を使うが,個人ユーザーほどの伸びはない。
もっとも,個人ユーザーがネットワークを自由に使って,その使い方を広げていくのは面白い。私は「ニコニコ動画」に対しても,否定的な意見は持っていない。ああいうサービスがどんどん出てきたら良いと思っている。
IIJもP2P技術を使った高画質コンテンツ配信プラットフォーム「SkeedCast」を提供している。
NTTの発想とは合致していないかもしれないが,我々は素晴らしい技術だと考えている。P2Pソフトの「BitTorrent」があれほど有名なのに,世界的には「Winny」(注:Winny開発者の金子勇氏がSkeedCastの開発に参加している)が有名でないのはおかしい。日本の何らかの風土が,Winnyのような技術のグローバル展開を阻んでいるとしたら残念だ。
いろいろと新しいものが出てくるのに,まず悪い面だけを見て,それを止めることが日本では多い。Winnyは準備不足で世に出てしまったという面を否定できないものの,私はそうした面白い技術を育てようという意識がとても強い。それはNTTのNGNよりも,はるかに面白い技術かもしれない。
コンピュータの主流は汎用機からパソコンへと移行し,個人がコンピュータの支配者になった。抽象的な言い方だが,ネットワークも将来,個人がネットを支配でき,自分でデザインできるようになるだろう。そのための実装技術はたくさんあるので,IIJとしても取り組んでいきたい。
>>後編
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(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年2月1日)