米A10ネットワークスは,専用ASICやFPGA(field programmable gate array),マルチコア・プロセッサなどの技術を駆使し,高速・高信頼のWebアクセラレータ装置を提供する企業。Webアクセラレータは,Webサーバーの前面に配置し,Webサーバーの負荷分散や処理負荷の低減を実施する装置である。同社CEO(最高経営責任者)のリー・チェン氏は,ファウンドリーネットワークスの創業者の一人でもある。このため,A10の製品は,高性能なL3スイッチで名高い,ファウンドリーに似た設計思想で作られている。チェンCEOにWebアクセラレータ市場の現状,同社の今後の計画について聞いた。

(聞き手は中道 理=日経コミュニケーション



今,Webアクセラレータでホットなトピックは何か。

写真●A10ネットワークスCEOのリー・チェン氏
写真●A10ネットワークスCEOのリー・チェン氏
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 大きく二つある。まずパフォーマンスだ。具体的には,高いスループットを実現しながら,大量のコネクションをどうやって処理するかが大きな問題となっている。高スループットは映像コンテンツの増大に対応するために必要であり,コネクションの増大は携帯電話のようなパソコン以外の端末からのインターネット接続が,その原因となっている。

 現在,インターネット・サービス事業者(ISP)やデータセンター事業者などはサーバーの前に何台ものWebアクセラレータを並べて,この問題に対処しようとしている。この結果,ラックのスペースと電力量が増大し,オペレーション・コストがかさむという問題に直面している。

 第2のトピックがIPv6への対応だ。IPv4アドレスの枯渇が問題となっており,IPv6への対応が急がれている。既に,通信事業者が自社網内でIPv6を使い始めている。ところが,インターネットやユーザー企業との接続ではIPv4を使わねばならず,IPv4とIPv6を変換できるシステムが必要になっている。

これらの問題への対処法は。

 高性能なWebアクセラレータに置き換えることだ。他社の製品では300Mビット/秒から数Gビット/秒程度のスループットしか出ないが,我々の製品では最大9.5Gビット/秒まで達成できる。つまり,他社製品が5台必要な場面において,1台で済むわけだ。

 IPv6に関しても高速で処理できなくてはならない。我々の製品は,IPv6にも対応しているし,IPv4とIPv6のNATをパフォーマンスを落とすことなく実行できる。1年半後には,30G~40Gビット/秒のスループットを達成できる,さらに高性能な製品の提供を開始する予定だ。

A10の顧客は。

 やはり,高スループットを要求されるサービスを提供している企業だ。ISPやデータセンター,大規模な企業,金融業界などで実績がある。通信事業者や携帯電話事業者でも,今後大きなマーケットがあると思っている。

A10の製品を利用している通信事業者はいるのか。

 既に米国の大手CATVのコムキャストが試験的に採用している。自社網内でIPv6を使い,ユーザーに提供する部分はIPv4で提供するというシステムでの利用だ。

 日本でも3カ月後に,A10が映像配信サービスで試験的に使われるようになる見込みだ。映像配信システム全体をIPv6で提供し,そこに我々の製品が使われる。残念ながら契約の問題で,どこの会社の計画かは話せない。

携帯電話事業者はどうか。

 現在,話し合いをしている段階だ。特に日本の携帯通信事業者は,現時点でも大量のトラフィックを処理している。今後3.5世代への移行,それに続く3.9世代,第4世代の通信サービスの開始によって,さらに処理量が激増する。我々の製品が,彼らのニーズに応えられるのではないかと考えている。