ロシア発祥の問題解決手法「TRIZ(トゥリーズ)」の活用が企業の間で徐々に広まっている(TRIZのキーワード解説記事も参照)。TRIZは、ロシア語の「発明的問題解決理論」の頭文字。公開されている膨大な特許情報から抽出された、40の発明原理を体系化したもので、これらを問題解決の定石として使うことができる。

 典型的な活用例としては、開発中の製品の「強度」と「重量」が矛盾する時には、強度と重量のバランスを探る代わりに、TRIZの「分割の原理」を適用することが考えられる。製品のなかで強度が必要な所を分割し、そこだけ頑丈な素材を使うわけだ。過去の経験に裏付けられているだけに、TRIZの原理は応用が効く確度が高い。

 約10年にわたってTRIZの研究やコンサルティングを行ってきた産業能率大学総合研究所TRIZセンターの黒澤愼輔部長に、最近の動向を聞いた。

(聞き手は、清嶋 直樹=日経情報ストラテジー)


TRIZはどのように使われているのか。

産業能率大学総合研究所TRIZセンターの黒澤愼輔部長
産業能率大学総合研究所TRIZセンターの黒澤愼輔部長

黒澤:ロシアで練り上げられたTRIZの体系は複雑でとっつきにくい面があった。米国などでは手っ取り早い問題解決手法としての応用が進み、使い勝手が良くなった。家電メーカーなどの研究・開発部門で技術的な問題を解決するために適用されることが多く、韓国サムスングループや松下電器産業、日立製作所などの取り組みが知られている。

具体的にはどのような製品でTRIZが応用されているのか。

黒澤:TRIZの適用について開発中の製品に関する情報が公表されることは少なく、水面下に隠れがちだが、例えば、JR東日本の車両開発が挙げられる。最高速度360km/hで営業運転を行うための新幹線の試験電車「FASTECH(ファステック)360」の車内トイレの設計で、TRIZが適用されている。

 限られたスペースの範囲内で使い勝手を良くしなければならないという課題を解決するために、(直線の廊下の左右に個室を配した)従来の車両内トイレの設計とは異なり、廊下を曲線状にして、その左右に男性小便所や女性用トイレを配置することで、女性向けトイレはベビーシートや化粧台などを一体的に配置するだけのスペースを確保する設計を可能にした。

 JR東日本は従来のVE(バリュー・エンジニアリング)などの手法では、現状改善を超えた発想が出にくいと考え、TRIZを導入することで、こうした発想の転換を促進しようとしている。

製品設計以外の分野にもTRIZは適用できるのか。

黒澤:TRIZには過去の技術進化の傾向をパターン化してとらえることで、将来の進化ロードマップを描く手法がある。それが「TRIZ-DE(Directed Evolution)」だ。この手法はマーケティングや商品企画などにも応用できる。
 
 例えば、「1つで使われていたものが2つ1組で使われるようになる」などといった形で、過去の製品の変化パターンを抽出し、製品の将来像にあてはめて考えるのに使う。例えばTRIZ-DEは、海外では新しいアイスクリームの商品企画に応用された例がある。私自身もこうした手法について食品メーカーとやり取りをしているところだ。