エレファントデザインの西山 浩平社長
エレファントデザインの西山 浩平社長

 良品計画は今年1月、「貼ったまま読める透明付箋紙」を発売した。地図や参考書などを読む際に、メモが邪魔にならないように作られた商品で、同社の「空想無印」というウェブサイトから生まれたものだ。

 空想無印では、消費者が自ら欲しい商品を提案して、一定数の賛同者が得られれば商品化が決まる。インターネット上で消費者が主体となって商品開発するサイトを運営しているエレファントデザイン(東京・品川区)と共同で、2007年2月に開設した。初の商品化となった透明付箋紙は(前身のプロジェクトを含めれば4件目)、「発売1カ月で当初計画の6カ月分が売れるほど、好調な勢いだ」とエレファントデザインの西山浩平社長は言う。

 エレファントデザインは、空想無印と同様の消費者提案型商品開発のサイト「空想生活」を運営し、10年目を迎えた。賛同者が得られた商品を実際に商品化するために、空想生活には様々な業種の企業500社以上が会員企業として登録している。開発案を出したり、気に入ったアイデアに賛同したりする消費者の会員数も約2万3000人おり、商品化したものはこれまでに25件に達する。

 「消費者が商品開発に参画してくれるため、会員企業は商品開発のための業務効率を向上できる。また、顧客を味方につけた商品づくりもできる」。西山社長はネットを活用した商品開発のメリットをこう指摘する。空想無印や空想生活を「消費者発のイノベーションを支える裏方役」だと語る西山社長に、ネットを活用した商品開発における組織体制などを聞いた。

(聞き手は、西 雄大=日経情報ストラテジー)


空想生活は開設してから10年目を迎えるが、これまでの成果は?

 毎月約110件の提案(空想生活57件、空想無印54件)がある。空想無印は空想生活以上に積極的な消費者会員が多いことが特徴だ。これらの会員の提案能力を最大限に引き出し、サイトを活性化するための方策を考えている。消費者からの提案が商品化までに至る割合を上げていきたい。

 提案力を強化するために、2006年8月から「空想スクール」を開講している。ほかの会員から賛同を得るにはどのようにプレゼンすればいいかなど、実践的なノウハウを提供している。もともとはうちが企業の商品企画担当者向けに開発した研修プログラムを一般向けに実施している。また、このプログラムは神戸大学や立命館大学など7大学でも授業に取り入れられている。来年度は10大学を目指したい。

ネットを活用した商品企画には、どのような能力が必要だと考えているか。

 これまでは商品企画には天才的なひらめきが必要とされてきたが、ネットを活用した商品企画には総務能力の高い人の方が向いているように思う。ファンドマネジャーのような金融関連の仕事がイメージに近い。

 具体的には、消費者が考えた提案を見て、「確実性はないが、当たれば伸びそうな商品」や「確実に売り上げが見込める商品」などを組み合わせて開発しながら、全体として売り上げを確保するといった役割が求められる。商品のタイプと数量をどう配分して、ポートフォリオをどう組むかといった能力が求められると考えている。

今後、取り組みたい課題を教えて欲しい。

 空想生活内には残念ながら、賛同者が多く集まっているのに商品化できていない商品がある。登録メーカー内で、既にある商品と競合してしまう恐れがあるといった理由からだ。一定数の賛同者を集めているのに商品化できなければ、消費者会員の意欲がそがれてしまう。提案率を向上させるためにも、これらの提案を商品化したい。

 我々がリスクを取って初期ロット分を発注することも検討している。そこで課題になっているのが、我々が発注を決める基準である。運営している我々が自ら発注してしまうと公正な場でなくなってしまう危険性があるからだ。だが、サイトを維持するためには必要だと考えている。「賛同者が集まってから基準となる期間を経ても商品化できなければ我々が発注する」といったルールを明確に設定するなど、判断基準をこれから考えていきたい。