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アラン・ラッセル氏

 2007年は、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールベンダーが相次いで買収されるなど、業界再編が一気に進んだ1年だった。米オラクルが米ハイペリオン・ソリューションズを傘下に収めたのに続き、独 SAP社が仏ビジネスオブジェクツを、米IBMはカナダのコグノスを買収した。こうした中、非公開企業として独自の道を歩むのが米SAS Instituteである。来日した同社フェローのアラン・ラッセル氏に、BIツールの今後の方向などについて聞いた。

昨年は大手BIベンダーの買収劇が相次いだ。

 「BIとは何か」が問われた年であるとも認識している。買収されたベンダーの中には、BIツールといっても結局はレポーティングツールを販売していた企業もあったと思う。レポーティングツールは企業経営の実態をモニタリングするには有効だが、これだけではBIとは呼べない。SASにとってのBIとは、レポーティングやモニタリングから一歩踏み込んで、データを細かく分析して今後を予測し、意思決定を支援できるようにすることである。

 企業経営で重要なのはコストを削減し、売り上げを拡大させることだ。これらを実現するための意思決定を支援できなければ、BIの存在意義がない。

 意思決定支援のために、SASが目指している製品戦略の方向性は二つある。一つはデータ分析のツールだけでなく、データを取り込むインフラツールまで提供することだ。データが多いほど分析の精度は高まるから、新しいインフラを構築するなど社内だけでなく社外のデータも取り込んで、統合できるようにする必要がある。

 そしてもう一つは、業務アプリケーションの開発である。

最近のSASは「統計分析ツール」のベンダーという印象が薄い。

 その通りだ。SASは現在、業務アプリケーションのパッケージベンダーとして、金融や流通など各業種向けに特化したツールの開発に注力している。意思決定を支援するには、各業界のビジネスモデルに精通しなければならない。業界特有の分析ノウハウも必要だ。

 かつては開発部門に数学者が多かったが、最近は金融業など各業種の専門家も増えている。直販だけでなく、各業種に強みを持つSIerとも積極的に協業していく。

BIの概念が変わるのか。

 米国の一部ユーザーは、BIという言葉をもう使っていない。意思決定支援にどれだけ役立つかを重視するため、ユーザー企業の中にはBIではなく“ディシジョンサイエンス”という新しいキーワードを使う人もいる。

 既に当社の製品を活用して意思決定を完全に自動化する事例も出てきた。この企業では、データ分析の結果によってワークフローを変更している。現場の利用者はBIの存在さえ感じていない。

 今後のBIは、各業種のビジネスモデルや業務プロセスとかかわるアプリケーションとして位置付けられる。利用者からは見えなくなるのかもしれない。