近年,相互運用性の実現に力を入れている米Microsoft。Office文書の新フォーマット「Office Open XML(Open XML)」も,ISO(国際標準化機構)での標準化が進行している。米Microsoftの相互運用性担当General ManagerであるThomas Andrew Robertson氏に,相互運用性に注力する理由や,最近の活動内容を聞いた(聞き手は中田 敦=ITpro)。



Microsoftは近年,相互運用性の取り組みに積極的です。Open XMLフォーマットの仕様を公開しましたし,サーバー分野でも,米Sun Microsystemsや米Novell,米Citrix Systemsなどとの連携を深めています。

写真●米Microsoft 相互運用性及び標準担当General Manager Thomas Andrew Robertson氏
写真●米Microsoft 相互運用性及び標準担当General Manager Thomas Andrew Robertson氏
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Robertson氏:われわれが相互運用性に注力しているのは,それが市場からの要望だからです。ユーザー企業のシステム管理部門はどこでも,異機種混在のITを社内で展開しており,システム・レベルやコンポーネント・レベルでの連携を期待しています。

 またユーザー企業は,「データのコントロール」も求めています。データをコントロールする上では,様々なドキュメント・フォーマットやシステム固有のデータ・フォーマットからデータを取り出せる(Retrieve)ことが必須になります。

 われわれは,システムの相互運用性やデータのコントロールを実現するために,主に4つの取り組みを行っています。

 1つ目は,われわれが製品を開発する上で,相互運用性を実現するためにどのような課題があるのか予測して,その解決策を取り入れていることです。

 2つ目は,サード・パーティと連携をして,課題を解決していることです。われわれはSunやNovell,Citrixに加えて,ターボリナックスやJbossプロジェクト,米SugarCRMなどとも連携しています。Microsoft製品との相互運用性をテストする組織「Interop Vendor Alliance(IVA)」には既に50社以上が参加しており,ベンダー間の連携も進んでいます。

 3つ目は,ベンダーやコミュニティがMicrosoft製品と連携できるソリューションを開発できるよう,技術情報に対するアクセス手段を提供していることです。この取り組みは「Microsoft Open Specification Promise」と呼んでいるものですが,商用ソフトのベンダーだけでなくオープン・ソース・コミュニティも,Microsoftの技術情報を参照できますし,われわれが保有している特許も一定の範囲であれば実装できます。

 既に40のWebサービス仕様を公開していますし,仮想ハードディスク形式の「Virtual HDD」や,「Sender-ID」を使ったスパム対策技術なども公開しています。

 4つ目は,標準化活動に力を入れていることです。ここで指摘したいのは,標準化だけが相互運用性実現の手法ではないということです。その時点で急速に浸透し始めているようなテクノロジに関しては,標準化が重要だとは考えていません。しかし,成熟したテクノロジでは,標準化がとても重要になります。

 われわれは,これら4つの手段のどれが顧客にとって最も適切かを見極めるために,顧客の心配は何か,顧客の声を常に聞こうと努力しています。例えばMicrosoftでは,ユーザー企業41社のCIOが参加する「Interoperability Executive Customer Council」という評議会を設けています。2年に一度,米国レドモンドのMicrosoft本社で総会を開き,相互運用性に関するロードマップをお伝えしています。

Open XMLのISO標準化はまもなく

Office文書の新フォーマット「Open XML」は,2008年9月の段階で,ISO標準としての採用が見送られました。その後の進展はどうなっていますか?

Robertson氏:Open XMLは現在,ISOで標準として批准される最終段階にあります。

 2007年9月にISOで行われた投票では,Open XMLの規格案に対して3500個のコメントが寄せられました。これらのコメントへの対案をECMA(欧州電子計算機工業界)が取りまとめ,2008年1月14日に,新しい議案としてISOに提出しました。

 2008年2月下旬にスイスのジュネーブで行われるISOの会合で,この議案が検討される予定です。ISOのメンバー国がこの議案を持ち帰り,3月末までに最終的な投票が行われます。ISOのすべてのプロセスは,最終的に「賛成」になるように設計されています。ECMAは,各メンバー国から寄せられた要望に基づいた,とてもいい提案を行いました。ISOの標準化プロセスによって,Open XML仕様は改善されたと思います。Open XMLが最終的にISO標準になると,私は確信しています。

 また,Open XMLで重要なのは,この規格が市場に受け入れられているということです。既に米IBMや米Google,米Apple,米Novell,BtoBサプライ・チェーンの標準団体であるRosettaNetも,Open XMLを受け入れています。

 Open XMLは,「ソフトウエア+サービス」時代の情報共有プラットフォームになりつつあります。2008年には,Open XMLに基づく様々なソリューションが,市場に投入されるでしょう。Open XMLによって,中小企業での情報共有が加速すると考えています。

IBMといえば,既にISO標準になった「OpenDocument Format(ODF)」に積極的な企業だと認識しています。IBMもOpen XMLを支持しているのですか?

Robertson氏:先日,韓国で行われた標準化に関する会合に出席したのですが,そこでもIBMの代表者が「Open XMLを製品に採用したのは,顧客からの要望があったからだ」と語っていました。Microsoftがベンダーに対してOpen XMLの採用を迫っているのではなく,顧客がそれを望んでいるのです。

サーバー・プロトコルの開示は進んでいる

Microsoftは長らく,Windows Serverが使用する各種プロトコルの技術情報開示を巡って,欧州連合(EU)の独占禁止法当局である欧州委員会(EC)と係争関係にありました。この問題はどうなりましたか?

Robertson氏:この問題に関しては,2007年9月17日に判決が下っています(関連記事:Microsoft,EUの独禁法違反訴訟で敗訴,制裁金6億ドル)。これによって,この問題に関するルールが明確になりましたので,Microsoftはそれを実行しています。

 本件は,通信プロトコルの情報開示を巡るものでした。判決によって,開発者はMicrosoftに一度だけロイヤルティを支払えば,技術情報にアクセスできるようになりました。また,Microsoftの特許を他社が製品に実装した際に課されるロイヤルティも,とても低額になりました(製品価格の1%)。

 実際に2007年12月には,オープン・ソースのファイル・サーバー・ソフトウエア「Samba」の開発チームが,通信プロトコルに関する技術情報の提供プログラムに契約しています(関連記事:Microsoft,フリー/オープン・ソース陣営へ通信プロトコル技術情報を提供)。

 現在,大企業,中小企業を問わず,相互運用性はますます重要になっています。Microsoftが提供する「知的財産権ライセンス」に参加するベンダー数は,今後ますます増加するでしょう。