【後編】携帯電話はPC並みに進化,Androidは活性化の仲間

>>前編 

最近ではKDDIと協業してSaaSのサービスを発表している。このように,通信事業者と協業することによって得られるメリットは何か。

 通信事業者はネットワーク上で付加価値の高いサービスを提供したい。我々にもソフトウエアの付加価値をネットワーク上で提供したいという思いがある。こうした両者の思いは完全に一致している。今後,ビジネスの規模がどれくらいの速さで拡大するかは分からないが,ユーザーのニーズに応えられるという意味で,win-winの関係を築いている。

 ただしKDDIとの協業は,独占的なものではない。これからSaaSの市場が立ち上がるところにある。事業者同士に競争させるのではなく,市場を拡大させる方向で考えたい。

 我々は,あくまでもプラットフォームとしてのソフトウエアを提供するという立場だ。そこで通信事業者が独自色を出すことができるし,ユーザーの選択肢として成立すると思う。

米グーグルが携帯機器向け開発プラットフォーム「Android」(アンドロイド)を開発している。Windows Mobileへの影響をどう見ているか。

樋口 泰行(ひぐち・やすゆき)氏
写真:辻 牧子

 Androidは今のところ形が見えていない。Windows Mobileにとってはいずれ競合関係になるだろうが,スマートフォンを活性化するという意味では“仲間”になるのではないだろうか。

 かつてWindows 95が登場したときに,米アップル製のパソコンも非常に売れた。パソコン市場全体が大いに盛り上がった。

 これと同じように,Androidはまだ規模が小さなスマートフォン市場を,Windows Mobileとともに盛り上げられるのではないか。

 今後,パソコンと携帯電話というビジネスの必須アイテム同士が連動することによって,いろいろな可能性が出てくるだろう。

Androidは,汎用的なインターネットの世界に携帯電話が取り込まれていく象徴のように見える。インターネットの側に携帯電話のサービスが広がる動きが始まるのでは。

 現時点ではパソコンと携帯電話などマイクロソフト製品を積んだ機器同士の方が親和性が高い。とはいえ,閉じた連携しかできないのでは,業界に良い影響を与えない。

 我々は,オープンな接続性を他社からも求められている。それに応え,業界全体が盛り上がるようにするのが,望ましい姿だと思う。

日本には,独自の“親指文化”が育っている。今後,Windows Mobile搭載スマートフォンをはじめとするフルキーボード搭載の端末が日本でも浸透するのだろうか。

 今,若い世代の人たちが,電車や駅のホームで親指で打ち込んでいる。日本中で打ち込んでいる量を,ビジネスに持ち込めば,ホワイトカラーの生産性は相当上がるのではないか。

 親指で打ち込む人たちの世代が上がっていくと,たとえば親指用のWindows Mobileが登場しているかもしれない。そのころには,ネットワークの速度はさらに高速化しているだろう。

 端末の画面は大きくなって,Webブラウズもスムーズにできるようになる。こうして,極めてパソコンに近い世界になっていくだろう。

スマートフォンはどのタイミングで普及が進むと見ているか。

 現時点でも,使い始めたユーザーは手放せなくなっている。ホワイトカラーの生産性向上や外勤用端末として,真剣に導入を検討する企業は多い。

 逆にWindows Mobileがあるから,Microsoft Exchange Serverの導入を検討する企業も出始めているほどだ。

マイクロソフト 代表執行役兼最高執行責任者
樋口 泰行(ひぐち・やすゆき)氏
1957年生まれ。兵庫県出身。1980年大阪大学工学部卒業。同年松下電器産業入社。1991年ハーバード大学経営大学院卒業。ボストンコンサルティンググループ,アップルコンピュータ,コンパックコンピュータを経て2003年に日本ヒューレット・パッカード代表取締役社長兼最高執行責任者,2005年にダイエー代表取締役社長兼最高執行責任者に就任。2007年3月にマイクロソフトに入社し代表執行役兼最高執行責任者に就任。同年7月からゼネラルビジネス担当を兼務。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年12月19日)