>>前編
米国でプロセスの重要性を学んだ
なぜそれほどの人数に海外経験を積ませるのですか。
私自身、海外での勤務を通じて、プロセスの大切さが分かったという経験をしています。国内勤務だけでは得がたいものです。1973年から5年間と1994年から3年間の2回、米国に赴任したのですが、1回目は、まだEDPの時代でした。私が若かったこともありますが、当時は情報システム部門と経営層との接点があまりなかった。
ところが2回目は、経営改革にITをどう生かすかが最大のテーマでした。いわゆるBPR(業務改革)という要素が入り始めて、サプライチェーンも動き出しました。このときに実感したのが、米国では「プロセス」が非常に大事だということです。
シックスシグマもそうですが、ものづくりのプロセスをどう進化させるかという議論が、経営プロセスにつながっていった。業務をプロセスに落とし込んで、誰でも一定品質の仕事をできるようにするのが標準化であり、プロセスをどう進化させるかが、最終的には企業の競争力になる。
プロセスをITでロックしておけば、誰だって2週間、いや3日ぐらいの教育訓練でできる。プロセス重視の考え方は、米国式経営の大きな長所です。ここを米国勤務で実感しました。
日本企業にプロセス重視の考え方を持ち込むのは難しいのでは。
1997年に米国から日本に帰ってきて、プロセスだ、ERP(統合基幹業務システム)だと言ったら最初は煙たがられました(笑)。
そのときに、ERPパッケージはオラクルとSAPが今後の主流になると判断しました。当時、松下はグローバルで約30種類のパッケージ製品を導入していましたが、2大勢力を使おうと決めたのです。
成長フェーズで、松下のIT部門が抱える課題は何でしょう。
海外拠点の体制強化ですね。成長フェーズにおける最大のテーマです。
松下グループは国内と海外の売り上げがほぼ半々になった。さらなる成長を目指す大坪改革では、海外の事業拡大が以前にも増して重要になっています。昔であれば何年かに1回しかなかった事業ドメインの拠点再編や統合が、今は頻繁にあります。情報システム部門は国内の事業ドメインと連携してグローバルにサポートしなければ、ドメインが海外展開できない。CISC(本誌注:社内分社のIT部門「コーポレート情報システム社」の略称)を母体としながら、グローバルで均一のサポート体制を保ち、各地域の製造・販売会社の動きをタイムリーに支援するのが新しい使命の1つです。
CISCをはじめとするIT部門の組織は今後さらに変化しますか。
必要に応じて柔軟に変えていきます。そもそも、事業部ごとに独立していた情報システム部門を集約してCISCを設立したのが2000年です。その前の年に、私が情報システム部門の集約を直訴しました。情報システム部門の部長職と本社の情報企画部長を兼務し、副社長の下でCIOのような役割を務めていたころです。複数の事業部がまとまって事業展開する必要性が高まった状況を踏まえての提案でした。
IT投資は国内を抑えて海外を増やす
提案が通って、そのままCISCの初代社長に就任されたわけですか。
そうです。発足後しばらくは事業部別の組織のままでしたが、2005年4月に情報システム部門を業務設計、システム開発など機能別の組織に再編しました。それに前後してシステムの全社共通化に向けた「CITA」(本誌注:コーポレートITアーキテクチャ。松下流のEAのこと)を定義するなど、システム開発の標準化を進めました。
情報システム部門としては、合理的な組織体制なのですが、情報システム部門のお客さんである利用部門にとっては、業務分野のノウハウを集めたほうが効率的です。そこでこの10月に、システム開発の機能別組織から、CRMや生産SCMなど業務別の組織に変えました。成長フェーズにおけるCISCの役割変化を表す再編です。
松下のIT投資は、もうすく海外での投資額が国内を上回るのではないですか。
切り分けは難しいですが、まだ日本が多いですね。研究開発、あるいはものづくりの最初の部分が日本中心ですから。ただ、しばらくは国内のIT投資を少し抑えながら海外を増やさなければならない。今後の3年間が、国内と海外の投資割合がちょうどチェンジするタイミングかもしれませんね。
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年11月14日)