サブプライム問題,エネルギ価格の高騰,顕在化する環境問題,インドや中国の台頭…。社会経済の激変を背に,企業経営は新たな変化を求められる。いかにITを経営に生かし,この難局を乗り切るか,ITリーダーにかかる期待は大きい。過去の常識が通用しないとの認識が欠かせない。米ITリサーチ会社GartnerのPeter Sondergaard氏は,「複雑性を受け容れよ」と,ITリーダーにエールを贈る。
ITリーダーが知っておくべき世界と日本の現状,そして課題解決の指針を尋ねた。
(聞き手は浅見 直樹=ITproディレクター)
サブプライム問題,エネルギ価格の高騰など,2007年後半は経済の不安が急速に増大しました。2008年の企業経営とエンタープライズICTに与える影響は。
![]() |
Peter Sondergaard氏(ピーター・ソンダーガード) 米Gartner リサーチ部門総責任者 写真:栗原 克己 |
先行きの見えない経済環境だからこそ,イノベーションを達成する重要なプロジェクトに予算を振り向けるべきです。こうした決断を下せない企業は,遅かれ早かれ市場から退場せざるを得ないでしょう。
当然,IT予算もビジネスの革新のために投じるべきです。「ITのためのITの革新」に終わってはいけません。そう考えると,多くの企業で見られる「IT予算の8割は既存システムの維持費」という現状は,ただの無駄遣い,と斬るしかありません。
いま,世界の企業はSaaS(Software as a Service)や仮想化技術の導入を急ピッチで進めています。理由は言うまでもなく,システムの維持コストを下げ,その分を革新的なプロジェクトに使うためです。世界経済の現状を考えると,2008年はこれらコストダウンを助ける技術にもっと注目が集まることでしょう。
先進的な企業は,さらに先を見据えた技術にも投資しています。「エンタープライズ・インフォメーション・マネジメント(EIM)」や「ビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)」といった技術です。全社のあらゆるデータを一元的に管理する仕組みがEIMです。もう一方のBPMは,企業全体の業務プロセスを包括して管理し,柔軟に組み替えるための仕組みです。
EIMとBPMはいわば両輪です。データがなければ,企業は自社を取り巻く状況が分かりません。データで現状が把握できたとしても,ビジネス・プロセスを容易に組み替える仕組みがなければ,チャンスを目の前にしながらただ指をくわえて見過ごすだけです。IT予算を節約するにも,革新的なビジネス・プロジェクトを推進するにも,これらが大いに役に立ちます。