CIOがビジネス・リーダーに

Peter Sondergaard氏(ピーター・ソンダーガード)
Peter Sondergaard氏(ピーター・ソンダーガード)
米Gartner リサーチ部門総責任者
写真:栗原 克己

 経営からITまで幅広いスキルを獲得できれば,活躍の場が広がります。興味深いことに,一部の企業ではCIOが「CIO以上の役割」,つまりビジネス・リーダーとしての役割を果たしています。

 ある企業は,企業全体のビジネス・プロセスについてCIOが統括責任を負っています。また別の企業は,CIOが顧客サービスの責任者になっています。これにより,ITと一体化した経営が一層実現しやすくなるわけです。

 個々人のスキルを高めるのはもちろんですが,チームとしての能力を高めていくアプローチも欠かせません。多くのプロジェクトは,人材を集め,そのスキルの特性を組み合わせて,チームで課題に当たるわけですから。

 国境を越えて人材を活用できる体制にしておけば,時代や状況に応じてスキルを柔軟に調達できます。3年前,あるフィンランドの企業は,ロシアの企業をシステム開発のオフショア先として活用していました。しかし今は逆に,モスクワに本社を置くロシアの企業が,フィンランドをオフショア拠点として活用しています。日本企業はインドや中国など,海外にも人材を求めるべきでしょう。

デジタル移民の行く末は…

2年ほど前,Gartnerは「デジタル・ネイティブ」を提示しました。生まれたころからデジタル機器に触れ,それらを難なく使いこなす16歳以下の世代がデジタル・ネイティブに当たるそうですね。
 2008年以降,デジタル・ネイティブは大学生あるいは社会人として,より深く
社会に関与するようになります。企業や社会システムは,彼あるいは彼女らが進出する準備ができているでしょうか。

 デジタル・ネイティブが社会に進出することで,ビジネスや社会のあり方が変わります。当然,経営もITも,そのあり方を変えざるを得ません。現状,まったく準備ができていないと言っていいでしょう。

 プロジェクトの構造はもっと機動的で,かつフラットにすべきです。デジタルの世界で見られるプロジェクトは,オープンなネットワーク上にメンバー全員がぶら下がり,等しく参加し,経験し,成果を上げていきます。これと同 じように,デジタル・ネイティブたちは誰が管理者や責任者になることもなく仕事を進めていくスタイルを好みます。階層構造の組織を当たり前としてきた私たちの世代にとっては,“エイリアン”のように理解しにくい存在です。

 私たちが今後ビジネスの世界で生き残るには,エイリアンは受け容れるべき存在です。インターネット上で経済が大きく動き,インターネット上で技術が進化しています。これに対応できるのは,それらを動かしているデジタ ル・ネイティブ自身です。企業はデジタル・ネイティブを受け容れることで,この進化を手中にできるのです。

 退職した方々には,時間が十分にあります。ネット・サーフィンを楽しむ高齢者は「シルバー・サーファー」と呼ばれていますが,新技術に触れ,楽しめる余裕をうまく表現した言葉です。

 一方,私のような世代はどうでしょうか。デジタル・ネイティブとシルバー・サーファーの間に挟まれ,まさに「デジタル・イミグラント(移民)」そのものですね。


米Gartner ガートナー リサーチ シニア バイス プレジデント
Peter Sondergaard氏(ピーター・ソンダーガード)
リサーチ事業の総責任者。Gartnerで18年以上リサーチ業務に携わる。Gartnerに入社する前は米International Data Corporation(IDC)に勤務。欧州事務所でPC市場の分析業務やコンサルティング・プロジェクトに従事した。スカンジナビア航空のプロジェクトでは、世界各地のホテルと同社の業務システムを接続するPC統合プロジェクトを推進した。欧州で商取引やビジネスについての寄稿や著作物を数多く発表している。