2010年に売上高を600億円に,営業の鍵は狩猟型と農耕型の融合

この10月1日に、丸紅ソリューションと丸紅情報システムズが合併し、新生・丸紅情報システムズとして発足した同社。吉光社長は旧丸紅ソリューションの社長として3年間、同社のトップを務めてきた。同じソリューションプロバイダながら事業形態が異なっていた両社をどう統合し、どのようなシナジー効果を生み出すのか。吉光社長に現況を聞いた。

まずは、合併の背景から教えてください。

 合併した目的はいくつかありますが、一つは2社の顧客とサービス形態がさほど重なっておらず、全体の顧客基盤の拡大とサービスメニューの強化が期待できることです。

 両社とも規模は同じぐらいですが、旧丸紅情報システムズ(MJS)は丸紅グループがお客様の中心。売り上げの半分は、丸紅本体を含めた丸紅グループ向けです。一方の丸紅ソリューション(MSOL)は逆に、丸紅グループ向けはほとんどありません。

 また、最先端のツールをお客様の要望に合わせながらカスタマイズして販売するMSOLのビジネスと、東京・多摩のデータセンターをベースとした運用やシステム開発が主力だったMJSのビジネスの一体化への期待があります。両者のモデルをうまく組み合わせれば、新しい技術やツールの提供から開発、運用・保守に至るまで、一貫したサービスの提供が可能になるからです。

 もちろん経済基盤の強化も大きな要因でした。2社が1社になることで経営効率を高められるうえ、M&A(企業の合併・買収)など新しい投資にも対応できます。

 現在の売り上げ規模は、両社の単純合算で約420億円、営業利益で15億円弱くらい。それを2010年度に売り上げ600億円、営業利益を30億円に引き上げる計画を立てています。

 ただ、有機的成長というか、自然体のままで600億円に持っていくのはなかなか難しい。M&Aなど事業拡大の施策を含めて策を練っています。実際にちょうど合併時と同じ10月1日に、産業用X線CT装置など非破壊検査機器の商社であるテスコを買収しました。これは製造ソリューションの強化の一つです。

先ほどサービスメニューの強化と言われましたが、どのような事業を展開していくのでしょう。

吉光 澄(よしみつ きよし)氏
写真:柳生 貴也

 4月から半年かけて準備を進めてきて、合併時にはデータセンター/アウトソーシングサービスとプラットフォーム/ネットワーク、エンタープライズソリューション、そして製造ソリューションの4種に整理しました。これが事業の柱となります。

 データセンター/アウトソーシングは、先にお話した多摩のデータセンターをベースとしたビジネスであり、旧MJSが担当していた分野。プラットフォーム/ネットワークは、サーバーやストレージ、セキュリティなどの分野で、旧MJSと旧MSOLの双方、どちらかといえばMSOLが強かったところでしょうか。三つ目のエンタープライズソリューションは、例えば独SAPのERP(統合基幹業務システム)製品をベースにした開発などで、旧MJSの得意分野。もともと丸紅自身が商社としては、かなり早い段階で導入した経緯があり、人材もそろっています。

 最後の製造ソリューションとは、電機や半導体、自動車メーカーといった製造業向けのさまざまなソリューションです。三次元プリンタやデジタイザ、CAMなどが代表的なもので、旧MSOLの得意なところですね。旧MSOLは、元をたどれば丸紅ハイテックと丸紅エレクトロニクスが97年に合併して誕生した会社。この分野にはかなり強みを持っています。

 これを顧客層から見れば、旧MJSは流通やサービスに強く、旧MSOLのお客様は製造業が中心ということがお分かりになるでしょう。一体化を機に、双方に乗り入れながら事業を拡大していくこと。これが重要です。

 一方、収益面からすれば、安定的な収益基盤の確保が課題です。現在、いわゆるストック的なビジネスの売り上げ比率は両社合わせて3割程度。運用や部品・材料の提供、保守といったストックビジネスを充実させ、早期に4割にまで引き上げたいと思っています。

合併に当たって、組織は変更したのですか。

 管理部門は一つにしましたが、10月1日時点では両社の組織はそのまま。全くいじっていません。だから業界関係者が組織図を見ると、ここからここまでの事業部が旧MSOLで、こっちからこっちが旧MJSだとすぐに分かってしまう(笑)。

 突然変えるとお客様が戸惑ってしまうという理由もあるのですが、それよりも半年は、どこをどうすれば効果的なシナジーを生み出せるのか、じっくり見ていこうという気持ちからです。

 2008年4月には、組織のくくり方を変更する予定です。この辺りでスピードを上げていかないと、2010年なんてあっという間に来てしまいますから。

 オフィスの統合も考えています。今の本社ビルは旧MSOLがいた東京・渋谷ですが、旧MJSは東京・錦糸町の新しいビル。同じ会社なのに立地的に1時間弱かかるというのは無駄もある。とはいえ今のところすぐにはスペースが空かないので、組織をうまく組み合わせてみたりなど、やれるところから手を付けていきます。

旧MSOLと旧MJSの両社は、ビジネススタイルが少し異なっていたと思います。

 その通りです。端的に言えば、旧MSOLは狩猟型、あるいは商社型で営業主体の会社。旧MJSは農耕型というか、技術主体の会社です。

 そういう背景から、例えば「営業」の位置付けが正反対になっています。営業担当は旧MSOLが150人、旧MJSは50人の計200人ですが、前者はプロフィットセンターで後者はコストセンター。もちろん収支は事業部でみますし全社としてとらえれば同じですが、それだけ営業に対する考え方が違っていたというわけです。

 旧MJSの場合、技術が分かる、ある仕事がしっかりできるという前提の上で仕事をキッチリ回すという側面が強かった。一方の旧MSOLは、営業がガンガン仕事を取ってくるというか、そういう文化。だからそれぞれを組み合わせていく中で、いい融合が出てくるようにしていきたいですね。ソリューションメニューの広がりも、そういう融合の中から生まれてくるものだと思っています。

 これからの営業スタイルとしては、旧MSOL型のやり方が基本になっていくとは思いますが、旧MSOLの営業もソリューションというよりプロダクトカットの面が強かった。ここの変革も重要です。

社内融合に向けて、複数の委員会を立ち上げたと聞きました。

 現在、営業力強化と技術、人事教育、システム統合、オフミーティングの五つの委員会が走っています。

 営業力強化委員会は私が委員長を務めており、営業統括の役員2人と各事業本部から数人ずつ入ってもらっています。内容は互いの情報共有だけでなく、例えば大手の特定のお客様にどうアプローチしていくのか議論するという実践的な面もあります。

 技術委員会は、両社が保有している技術の共有と、その上でどういうソリューションを作り出していくかという議論の場。人事教育委員会は、来年4月からの新年度に向け、営業や技術といった職種ごとのキャリアパスの設定などが役割です。システム統合とはその名の通り、現時点ではバラバラの基幹系システムの統合を検討しています。

 最後のオフミーティングって何かと言うと、私や副社長が音頭を取って、社員と大いに飲んで食べる場というか(笑)。要は経営層が何を考えているのか、ざっくばらんに話し合っていこうという会合です。我々はデジタルを売りにしている会社ですが、やはり最後はコミュニケーションですから。


丸紅情報システムズ代表取締役社長
吉光 澄(よしみつ きよし)氏
1947年生まれ。広島県出身。71年に慶応義塾大学卒業後、丸紅飯田入社。95年丸紅米国会社サンフランシスコ支店長、99年丸紅取締役電力プロジェクト本部長、2000年丸紅取締役ユーティリティ・インフラ部門長、02年丸紅常務執行役員 欧州支配人 丸紅欧州会社社長。2004年丸紅ソリューション社長、2007年10月より現職。趣味は夫婦での映画鑑賞。

(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年11月30日)