製販一体で組織の垣根を無くす,「見せる化」と「見てる化」が肝要だ

三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)は2005年秋、2010年度に売上高800億円を目指す中期計画を策定した。06年4月に就任した志岐社長は、まさにその推進役を担っている。市況の好転を追い風に業績を伸ばしているMDISだが、志岐社長は同社をどう導いていくのか。グループ各社の関係や営業力強化の取り組みと併せて聞く。

現在のビジネスの形態を教えてください。

 当社(MDIS)は2001年4月に、三菱電機本体の情報システム事業を再編・分社化して発足しました。当社のほかに三菱電機情報ネットワーク(MIND)と三菱電機インフォメーションテクノロジー(MDIT)、三菱電機ビジネスシステム(MB)の4社がグループとなって、三菱電機の情報システム事業を推進しています。

 実は2年前に、4社共通のロゴを作りました。「ダイヤモンドソリューション」というのですが、これには三つ意味があります。一つはご存知のように、三菱のスリーダイヤの意味。もう一つは、ダイヤモンドのように皆さんから欲しがられるソリューションを提供しようということ。そして最後は私が付け加えたのですが、ダイヤモンドのように少々高くても買ってもらえるように(笑)、という思いを込めてです。もちろんそのためには、高品質という裏付けが必要ですが。

 当社の売上高は2006年度が約680億円でした。今年度は700億円ぐらいと見ていましたが、もう少し伸びそうに思っています。昨年度の業務形態別に見た売り上げ比率は、ダイレクトビジネスが75%でコラボレーションビジネスが15%、レバレッジビジネスが10%といったところです。

 それぞれ当社の呼称なので補足しますと、ダイレクトビジネスは当社が自ら営業や開発・構築、保守まで手がけるもの。コラボレーションビジネスは三菱電機の営業部門を通じてお客様に納めるもの。特に官公庁向けなどがそうですね。

 三つ目のレバレッジビジネスというのは、例えば三菱電機の組み込みソフトウエアに当社が携わり、実際の製品としては三菱電機ブランドで出ていくもの。例えば携帯電話やカーナビなどです。

 別の角度で見ますと、当社の主力であるダイレクトビジネスのうち、三菱電機グループ向けは約10%。他の65%は外販です。またコラボレーションも営業こそ三菱電機ですが、開発はすべて当社。この15%を加えると、80%はエンドユーザーに対する外販となります。さらに言えば、これら全ビジネスの7~8割はシステム開発です。

MDISが得意とする分野は。

志岐 紀夫(しき・のりお)氏
写真・柳生 貴也

 端的に言えば、ミッションクリティカルな大規模システムとセキュリティ分野の二つです。

 当社のお客様は大手、準大手の企業が多く、非常に重要な部分のシステム化をお手伝いするケースが多いんです。例えば鉄道のチケット販売・予約システムや航空会社のチェックインシステム、都銀の大規模ネットワーク構築などが代表的なもの。ここはもっともっと得意にしていかねばと思っています。

 一方、セキュリティは既にさまざまなところに組み込まれていますから、単独の案件ではなくトータルシステムとして扱う場合が大半です。当社は情報分野におけるセキュリティですが、三菱電機のビル事業本部は物理的なセキュリティシステムを手がけています。両者が連携して大規模なトータルセキュリティシステムを構築するケースもあります。

 一般企業向けではERP(統合基幹業務システム)が強みですね。独SAPのR/3を三菱電機が早くから扱っていたこともあり、その経験を当社は受け継いでいますから。

 これまでに100社以上のお客様に導入しました。大企業の導入が一段落したため昨年度は踊り場のような感じでしたが、今年度はまた大型案件が出てきました。

オフショア開発への取り組みはいかがでしょう。

 原価低減という観点から積極的に取り組んでいます。当社のオフショアの拠点は中国の上海と大連。また上海の別の企業には、少し出資しています。

 現地の中国企業には我々のメンバーも何人か駐在させて、開発手法や品質管理手法などを伝えながら開発しているのが現状です。今は当社のソフト開発全体の1割弱程度ですが、早期に2割に高めたいと思っています。

 中国はオフショア開発だけでなく、市場としても有望と見ています。特に日本の製造業は中国に非常に多くの工場を作っているので、その日系企業のお手伝いの需要が出始めています。

 実際にある中堅企業のお客様が、内部統制絡みで中国の拠点にERPを導入する案件を手がけました。今は経費削減よりも、内部統制対応を先行させるお客様が増えており、特に海外拠点でその傾向が見られます。

営業の体制はどうなっていますか。

 当社には2200人強の社員がいますが、うち営業は250人くらい。ただし組織として独立しているのではなく、四つの事業本部の中にSEといっしょに配置されており、いわゆる製販一体構造となっています。その点から、営業とSEのコミュニケーションはとてもよくなっていると思いますよ。

 当社でも営業の「見える化」を進めています。「デジタル週報」と呼んでいますが、営業プロセスをビジブル化したハンドブックを作り、そこに入れた情報を検索したり、活用できるようにしています。

 入力する情報は、例えば担当者が自分のお客様とコンタクトしたときの相手の状況などですね。入力フォーマットが決まっており、そこに情報を書き込んでいくと、ちょうど1週間の進ちょくが分かるようになっています。これを皆で共有し、営業プロセスの進ちょくを見ながら次のアクションに役立てるのが目的です。

 ただし、「見える化」は口で言うのは簡単ですが、なかなか上手くいかない場合が多いと思います。情報を入力する人は、相手にいかに見せるかという意欲がないとならないし、一方、上司を含めた周囲はそれを本気で見るという意欲の二つがないと形骸化してしまう。だから私は、「見える化」の実現には、「見せる化」と「見てる化」の二つが絶対に必要だと思っています(笑)。

 一般に営業担当者は、ITや標準化という名の押し付けを嫌うんです。トップ営業ならそれでもいいですが、私としては営業の平均的な底上げをして、会社全体の営業力を強化したい。それにさまざまな情報は何らかの形で文書化されていないと、ローテーションや引き継ぎのときに困ってしまいます。現在、これらの考え方を導入した新しい営業支援システムを検討しているところです。

グループ各社との連携は。

 とても緊密にやっています。例えばMDITのプラットフォームを使って当社が開発したシステムを、MINDが24時間保守するとかね。できるだけ各社の強いところを持ち寄ってビジネスを展開するようにしています。もちろん各社とも付加価値の高いビジネスを追求しているので重なる部分もありますが、徒競走ぐらいの競争ならあったほうがいいのではないでしょうか。グループ全体として取りこぼしも減りますし。

 それに今後は、三菱電機を含めたグループ全体としての人事交流が必要と思っています。特に、各社のユーザー部門との交流です。

 私は以前、三菱電機ビルテクノサービス(MELTEC)の情報システム部長として、ユーザーの立場でシステムを見てきました。その経験が今、非常に役に立っています。だから当社の若いSEや営業も、ユーザーの情報システム部門や企画部門で勉強すれば、将来きっと役に立ちます。

 幸い、三菱電機グループの中だとそういう交流ができると思うので、グループ連携という観点からも積極的にやっていきたいですね。

三菱電機インフォメーションシステムズ取締役社長
志岐 紀夫(しき・のりお)氏
1972年東京大学大学院工学科研究科博士課程修了、三菱電機入社。94年情報システム製作所電力システム部長。99年三菱電機ビルテクノサービス取締役情報システム部長、2000年ダイヤモンドソリューションプラザ社長、02年三菱電機アプリケーションサービス社長、03年4月三菱電機情報ネットワーク社長、06年4月から現職。趣味はゴルフと週1回のスポーツクラブ通い。

(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年11月21日)