マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品部部長 吉川 顕太郎 氏(撮影=田部井 久)
マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品部部長 吉川 顕太郎 氏(撮影=田部井 久)


図1:Windows Server 2008の土台と3本柱(クリックすると拡大表示します)

 2008年4月のラウンチに向けて,次期サーバーOS「Windows Server 2008」の全容がほぼ見えてきた。マイクロソフトWindows Server製品部の吉川顕太郎氏に,Windows Server 2008における注目の新技術の特徴や背景,そして製品を通してITエンジニアに伝えたいことを聞いた。(聞き手は中西 佳世子=日経BPソフトプレス)

Windows Server 2008の来年の発売に向けて開発が進む中,出荷候補版(RC0)が9月26日出ました。これで製品出荷にまた一歩近づきましたが,RC0では堅牢性と管理性の土台の上に乗る「Web」「仮想化」「セキュリティ」の3つの柱でユーザーに訴求していますね(図1)。

 堅牢性も管理性も,2008に限らずWindows Serverを通じてずっと目指してきたことですが,今回特にこだわったのはセキュリティの品質です。今までで最も堅牢でセキュアなOSになったという自信があります。ベータ3版へのフィードバックでも非常に高い評価をいただきました。Windows Server 2003のときとは手応えが全然違います。ブルースクリーンが出たという話も聞こえてきません(笑)。

どのようにして高品質を目指したのですか。

 1つは,開発プロセスです。世界中にいる8000人ものメンバーによる開発プロジェクトですから,これはたいへんな作業です。過去の蓄積によってマイクロソフトの開発プロセスが洗練され,それが高品質な製品を生み出すパワーになったのだと思います。またセキュリティは,2002年1月にビル・ゲイツが全社員に向けて出したスローガン "Trustworthy Computing"(信頼できるコンピューティング)の言葉通り,「機能よりセキュリティ」という姿勢を貫きました。機能とセキュリティはトレードオフになることが多いのですが,迷ったら機能をカットしても必ずセキュリティを取りました。

最も話題性があり登場が待たれる「仮想化」は,Windows Sever 2008発売後180日以内に出ると発表されています。

 Windows Server 2008が完成しないと仮想化のテストができないという依存関係があるため,待ち遠しいですが,同時に市場に投入できないのですね。Windows Server 2008自体も出荷時の品質にこだわっていまして,ベーターカスタマやパートナからOKをいただくまでは出しません。ということで,「来年の第1四半期」という幅のある言い方になっています。

仮想化に対応するのはx64だけですね。

 現時点で新規出荷されているサーバーのほとんどは,Intel VTおよびAMD-Vといった仮想化支援機能をもつCPUを搭載していて,いずれも64ビットです。ゲストOSには32ビットが乗るので,64ビットのみの対応で問題になることはありません。

VM(仮想マシン)当たりの最大コア数は,ベータ3では8コアとされていましたが,その後,最大4コアになりました。

 これはテストの問題だと考えてください。論理的にできるということと,シナリオとして成り立つこととは別のこと。テストできるかどうか,パッチが出せるかどうかは,人とお金と時間をどこまでかけられるかというスケーラビリティの問題です。その結果,今回担保できるのは4コアということになりました。

実用上,最適なコア数はありますか。

 VMの上で動かすワークロードによりますね。ネックになるのはI/Oです。データベースのようにディスクI/Oが頻繁に起きるものと,メモリ上でキャッシュベースで動くものではワークロードがまったく違いますから,一概に言えません。実は,そういったサイジングのデータこそ,お客様から一番求められるんです。そのため,ベンチマーキングを行った結果をホワイトペーパーにしてお客様に提供しようと考えているところです。

仮想化は,技術面だけでなく "エコシステム" としてとらえる

仮想マシン上ではLinuxも動きますね。

 OSと仮想化レイヤーの依存性を排したい,というのが基本的な考え方です。ゲストOSのインターオペラビリティを確保すれば,異なる仮想化レイヤー上でも同一ゲストOSが動く。これもお客様から強い要望です。お客様は仮想化レイヤーにおいてもベンダーのロックインからさよならしたいんです。その実現に,仮想化技術間の相互運用性が大きく貢献します。

仮想化のライセンスに特徴があるようですが。

 はい。ライセンスには大きく分けて,コアベース(コア数)と物理ソケットベース(CPU数)がありますが,マイクロソフトのライセンスモデルは物理ソケットベースです。これは仮想化環境下でも変わりません。理由は,それがお客様にとってリーズナブルだからです。コア数が2,4…とリニア増えても,性能は2倍,4倍…とリニアには増えませんから,コアベースはリーズナブルとは言えません。私たちは,コア数が増えるのはCPU単体の性能が上がることだと考えています。「ムーアの法則」もそう考えないと成り立ちません(笑)。

11月13日にWindows Server 2008のライセンス体系の発表がありました。

 マイクロソフトがサーバーのライセンスモデルを大きく改変したのは2005年10月でした。このとき,インストールする権利とインスタンスとして実行する権利を分けたのです。インストールしているのに実行しないものに対してお金を払うことが無いように,ということで,つまりその時点から仮想化を意識していたのです。

技術が複雑になるとライセンス体系も変わっていくのでしょうか。

 どういうライセンシングにするかはビジネスモデルの問題です。これから業界として,ある方向に収れんしていくでしょうが,マイクロソフトが採用しているのはお客様にとってリーゾナブルでパートナにとって迷わないライセンス体系。目指すのは「エコシステム」です。

エコシステムとは。

 訳せば「生態系」。環境変化に対応させながら生き残っていくシステムです。誰かが損をするようなシステムでは生き残れない。誰も損しないプラットフォームが長く生きるんですね。ですから,これは業界として考えなければならないことだと思っていますが,私たちにとっては,お客様とパートナとマイクロソフト,みんながうまく共生しながら市場を発展させていくことです。それには技術だけでなくライセンスモデルも考えなければならない。いわばこれはオープンソースに対するアンチテーゼなんです。オープンソースはサポートをベースとしたエコシステムであり,今後生きていけるかという問題を抱えていますから。