アプリケーションを利用する環境を整える“アプリケーション・デリバリ”を事業方針として抱え,元々の本業であるWindows画面情報プロトコルに加えてWeb高速化やWAN高速化,SSL-VPNなどを提供する企業を手広く買収してきたのが米Citrix Systemsである。同社にとっての最新分野は,遠隔地に設置した仮想マシンを画面情報端末から操作するデスクトップ配信分野。2007年10月にハイパーバイザ開発会社の米XenSourceを買収した同社でデスクトップ配信グループ製品マーケティング責任者を務めるSumit Dhawan氏に,XenSource技術をどうアプリケーション・デリバリに活用するのかを聞いた。



米Citrix Systemsでデスクトップ配信グループ製品マーケティング責任者を務めるSumit Dhawan氏
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米Citrix Systemsとしては最新のトピックとなるデスクトップ・デリバリ(配信)とは何か。

 米Citrix Systemsの事業内容は,昔も今も,アプリケーション・デリバリである。アプリケーションを快適に利用するための環境を,ミドルウエアやネットワーク・アプライアンスなどによって提供し続けている。ここで,アプリケーション配信のための重要なポイントが,仮想化技術である。仮想化の対象となる柱は3つある。データセンターの仮想化,アプリケーションの仮想化,デスクトップの仮想化---だ。

 米Citrix Systemsは元々,Citrix Presentation Server(旧MetaFrame)で,アプリケーションの仮想化を図ってきた。サーバー側でアプリケーションを動作させ,アプリケーションの画面情報を端末側に送るというものだ。このときに使う画面情報プロトコルがICA(Independent Computing Architecture)である。最新版のCitrix Presentation Server 4.5では,ICAを用いた画面情報の配信に加え,Windowsアプリケーションそのものを配布して動作させる,ストリーミングと呼ぶ機能を追加した。

 今回,米XenSourceの買収によって,データセンターの仮想化(サーバー仮想化)を実現するとともに,デスクトップの仮想化(クライアントPCの仮想化)機能を,強化することができた。デスクトップ仮想化分野の新製品としては,仮想マシンのデスクトップ・イメージをRDP/ICA変換してICAクライアントに配信するCitrix Desktop Server(編集部注:国内では未出荷)の後継ソフトとして,XenSourceの仮想マシン機能や仮想マシン・イメージの共有機能などを含んだCitrix XenDesktopを,2008年上半期に市場に投入する。

 サーバー仮想化はすでに確立された市場だが,今後4年間で40%以上の伸びが見込めるなど,まだまだ成長している。一方,デスクトップ仮想化市場は,今まさにホットになりつつあるこれからの市場であり,米IDCやCredit Suisseの予測では,2010年までに10億ドル規模,今後4年間で90%以上の伸びが見込まれている。

デスクトップの仮想化とは何か。何故デスクトップの仮想化が必要なのか。

 デスクトップの仮想化とは,OS環境(デスクトップ環境)の仮想化のことだ。アプリケーションの仮想化とは対(つい)になる。アプリケーションの仮想化ではICAやストリーミングによってアプリケーションの利用環境を配信するが,一方でデスクトップの仮想化では,データセンター側で仮想クライアント・マシン(デスクトップ環境)を動作させ,これをICAで画面情報端末に配信する。

 デスクトップ環境(Windows OSのGUI環境)をデータセンター側の仮想マシン上に構築することの意味は大きい。(アプリケーションの仮想化によるメリットと多少は重なるが)分散したクライアントPCから情報が漏えいするというセキュリティ上の問題,購入費用の4~5倍はかかると言われるクライアントの管理費用の問題,さらに,使っているうちにWindowsが遅くなっていくという問題---などを解決できるようになる。

 推奨する使い方は,端末に近いフロントエンド側にCitrix XenDesktopを配置し,その背後にCitrix Presentation Serverを置いて,この両者を組み合わせ,同時に使うというものだ。端末はICAで仮想マシンのデスクトップ環境にアクセスする。デスクトップ環境には,ICAまたはストリーミングによって,Citrix Presentation Serverからアプリケーションを配信する。すでにCitrix Presentation Serverを導入済みのユーザーだけでなく,これから導入するユーザーにとっても両者の組み合わせはメリットが大きい。

 アプリケーションの仮想化だけでは,デスクトップ環境のパフォーマンスが日々劣化してしまう。一方で,デスクトップの仮想化だけでは,日々のアプリケーションのバージョン・アップなどによるデスクトップ環境への影響が大きい。つまり,デスクトップとアプリケーションとを分離して考えること,デスクトップの仮想化とアプリケーションの仮想化を分けて考えること,この両者を同時に使うこと---が重要になる。インストールしたばかりの,セキュリティ・パッチを適用しただけの,キビキビ動作する,まっさらなOS環境を,常時利用できるようになる。

VMwareの仮想マシンをRDP経由で使う際に,仮想マシンのVMイメージとユーザーとをヒモ付けて管理する“デスクトップ・ブローカ”と呼ぶ製品ジャンルがある。こうした既存の製品とCitrix XenDesktopとの違いは何か。

 確かに,VDI(Virtual Desktop Infrastructure)と呼ぶ概念が,注目を集めている。(あたかもブレードPCと画面情報プロトコルの組み合わせのように)VMwareなどの仮想マシン・ソフト上でユーザーごとの仮想クライアントPC(デスクトップ環境)を動作させ,この画面情報だけをWindows標準のRDP(Remote Desktop Protocol)などで端末に配信する,という使い方を指す言葉だ。この概念を実現するためのミドルウエアが複数製品化されている。

 VDIのためのソフトが備える基本機能は,デスクトップ・ブローカ,すなわち仮想マシン・イメージとユーザーとのマッチングを管理し,ユーザーに応じてユーザーごとの仮想マシンを立ち上げ,その画面情報を提供する,というものだ。米Citrix Systemsの製品として現在提供中であるCitrix Desktop Serverもまた,この機能を提供しているソフトだ。ただし,Citrix Desktop Serverでは,仮想マシンとの間の画面情報プロトコルはRDPだが,これをCitrix Desktop Serverがゲートウエイとして中継してICAにプロトコル変換し,ICAクライアントに配信するという形を採っている。

 これに対して,Citrix XenDesktopでは,デスクトップ・ブローカ機能に加えて,2つの重要な機能を提供する。1つは,Xenによる仮想マシン環境(ハイパーバイザ)と,仮想マシン上で動作する画面情報端末サーバー機能(ICAサーバー機能)である。もう1つは,仮想マシン・イメージを複数のユーザーで共通化することで,仮想マシン・イメージの格納のために必要となるストレージ領域を大幅に削減するプロビジョニング機能である。

端末と仮想マシンがICAで直接通信するということは,クライアントPC上で動作するICAサーバー・ソフトの提供を開始するという意味か。Windows XP/Vistaが備えるRDPサーバー機能(リモート・デスクトップ機能)を代替可能になるのか。

 その通りだ。これまで,ICAサーバー機能は,Citrix Presentation ServerとCitrix Desktop Serverというサーバー製品にのみ含まれていた機能である。つまり,デスクトップ環境であるところのクライアントPC上で動作するものではなかった。これに対して今回は,Windows XP/Vistaなどエンドユーザーのデスクトップ環境の上で動作するICAサーバー・ソフトを用意した。

 ただし,ICAクライアント・ソフトのように簡単に入手できるものではなく,Citrix XenDesktopを購入しないと利用できない。だが,Citrix XenDesktopを購入したからと言って,ハイパーバイザがXenに固定化されるというわけではない。例えば,VMwareを使っても構わない。VMwareの仮想マシン上にあるWindows XP/Vistaの上でICAサーバー・ソフトを動作させても,もちろん構わないというわけだ。

仮想マシン・イメージを複数のユーザーで共通化してストレージを削減するプロビジョニング機能とは何か。

 VDIを実現する従来のデスクトップ・ブローカ製品では,1000人のユーザーがいたら,1000個の仮想マシン・イメージをストレージに格納しておく必要があった。仮想マシン・イメージは,ユーザー固有のものだったのだ。1人あたり8Gバイトで1000人いたら,これだけで8Tバイトのストレージを確保しなければならなくなる。

 一方,Citrix XenDesktopのプロビジョニング機能は,仮想マシン・イメージを2つのコンポーネント要素に分割して管理する。1つは全ユーザーに共通の設定内容「テンプレート」部分であり,もう1つはユーザーごとに異なるパーソナライズ部分である。全ユーザーに共通するOS設定の仮想イメージを,全ユーザーで共有することが可能になる。単純に,1000人で使っていても1万人で使っていても,たった1人分の仮想イメージだけでよくなる。

 基本は,企業全体のテンプレート(OSの標準状態)を定めて維持/管理しておき,ユーザーに全ユーザー共通のデスクトップ環境を使わせる。ただし,ユーザーごとに違う設定も,パーソナライズ可能にしている。仮想マシン・イメージとしては,全ユーザーに共通のテンプレート部分と,ユーザー固有のパーソナライズ部分,この2つが合わさったものとなる。