ソフトスイッチ・ベンダー大手の米ソナス・ネットワークス。アジアの通信事業者などがシンガポールに集まり,それぞれのNGN(次世代ネットワーク)構想を披露した「NGN Summit 2007」には,同社も参加していた。NGN Summit 2007を訪れていたソナスのルービン副社長に,世界における固定電話網のIP化のトレンドや,NGN時代の通信事業者像などについて聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コミュニケーション



固定電話網をIP化する通信事業者が出始めてから数年たっている。始めは中継交換機のIP化から着手する例が多いと思うが,よりエッジに近い加入者交換機のIP化もそろそろ進んでいるのではないか。


米ソナス・ネットワークスのマイケル・ルービン副社長
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 その質問への答えは「イエス」でもあり「ノー」でもある。というのは,それが移行作業の難しさと直結しているからだ。

 中継系のIP化は,早急に進められる。バックボーンに近い部分なので,交換機をソフトスイッチに変えてもユーザーは気が付かない。しかし加入者系の場合は,宅内にIP電話用のゲートウエイ装置を設置したりする作業を伴う。ユーザー宅内にも作業が発生するため,通信事業者側の都合では早急に進められない。

 加入者系のIP化需要が増えていることは確かだが,実際の移行作業は中継系ほどのスピード感で進められないのが現実だ。ただ,着実にIP化は進んでいる。

それは世界的に見て,どこでも同じような傾向があるのか。

 そうだ。(1)交換機が古くなっている,(2)新しいサービスへのニーズが高まっている,(3)他社とのサービス競争が激しくなっている,(4)通信サービスにおいて,データ通信が主流で音声が脇役になってきている――などの事情は世界共通で,中継網だけでなく加入者網もIP化していく流れがある。

 特に日本の通信事業者はその移行スピードが激しい。いろいろな国で事情は異なり,ユーザーの志向も違うが,基本的な傾向は同じだ。

電話以外の新サービスが求められている中で,NGNによるキラー・アプリケーションの模索が世界中の通信事業者で起こっているように思える。

 それにはインターネットの世界のやり方が重要だと思う。インターネットの世界は,仕様のオープン化などで非常にサービス開発が自由だ。また,個人ユーザーがコンテンツを作ったりと,個人をネット上のサービス開発に巻き込む自由さとダイナミズムがある。

 一方でテレコムの世界は逆だ。通信事業者が中心になり,電話網を作り,電話サービスを一手に提供してきた。

 IP技術を使うNGN時代の通信事業者として何が必要かというと,映像配信にしても何にしても,早く簡単にサービス投入できる環境を整えることだ。通信事業者がNGNやIP化に直面する今は,次のステージへの入り口。インターネットの世界のような自由でスピード感のあるサービス開発,マーケティングに準じたサービス開発が重要になる。そうでないと通信事業者はユーザーの需要には応えていけない。

 我々のようなベンダーは,通信事業者がNGNでの新サービス投入に早く動けるような環境を整えるために,新技術や機能を搭載した機器を提供していくことが重要だと考えている。

ただ,NGN時代でもサービス開発を電話に頼ってしまう一面が,通信事業者にはあるようだ。NGNが電話に重きを置いたIPネットワークになり,IP技術やインターネットの自由度を生かしきれない可能性もある。

 事業者それぞれに複雑な事情はあるだろう。ただ,それは通信事業者にとって心地よい,やりやすいやり方だけなのではないか。

 そうはいっても,時代や技術は変わっており,NGN時代には新しいビジネスモデルを作らないといけない。これまでビジネスの柱としてきた音声は,IP網上では一つのアプリケーションに過ぎず,多くの収益を見込めないサービスになりつつあるというのを認識すべきだ。

 これからの技術開発は主にベンダーの担当。通信事業者はサービス事業者として,新しいサービスの投入や新しいビジネスモデルを考え出すことに重点を置く必要がある。まだこの点を理解できていない事業者は多いかもしれない。

そうなるとソナスとしても,いつまでも音声用のソフトスイッチをメインに事業展開するのではなく,映像サービスを制御する製品やソリューションなどの投入が必要になるのではないか。具体的な計画はあるか。

 ソナスは,リアルタイム・サービスをコントロールする技術を持っている。それを,まずは音声制御に生かしたに過ぎない。

 次は当然,映像分野にも生かすことを考える。我々の音声制御のテクノロジは,映像配信にも当然,適用できるものだ。プロダクト単体というよりも,ソリューションに近い売り方になると思う。ただ,そのような製品を出すのかはまだ言えない。市場の動向によるが,そう遠くないはずだ。