自治体の情報化進展度を調査した「e都市ランキング」で、昨年の1250位から58位へと大きく順位を上げた佐賀県武雄市。「市のホームページを全国有数のものにする」そんな公約を掲げて2006年4月に武雄市長に当選した樋渡啓祐(ひわたし・けいすけ)氏。樋渡市長が想い描く自治体サイトのあり方について聞いた。
(聞き手:黒田 隆明=日経BPガバメントテクノロジー編集長、写真:佐藤 久)

※ このコンテンツは『日経BPガバメントテクノロジー』第16号(2007年10月1日発行)の掲載記事に加筆したものです。


樋渡市長の写真
「まずは情報をタイムリーに、分かりやすく出していくことから始めています」と語る樋渡市長。

市長選の公約の一つに市のサイトの充実を掲げた理由は?

樋渡 武雄市のような、人口約5万2000人の小さな地方の自治体では、今のところ都会と比べると自治体サイトの重要度はそんなに高くありません。トップページのアクセスも1日800人~900人程度です。にもかかわらず、どうしてこんなに力を注いでいるかというと、10年後を見据えているからです。

 まちづくりに成功した全国の市を見ても、だいたい10数年はかかっています。ですから私は市長を3期・12年は続けたいと思ってます。そして、10年後には光ファイバー、あるいはスピードの速い無線LANなどが普及しているでしょう。そのときにどんなことができるのか。いきなり何かをやろうと思ってもできませんから、そのトレーニングを今からやっている、ということです。

 例えば、10年後にはおそらく市の広報誌はなくなっていると思います。自治体にはもうお金がないんですよ。広報誌をつくるのに年間400万~500万円くらいかかっていますが、このコストも「無駄だ」ということになってくると思います。

携帯サイトよりパソコンサイト重視で

「10年後の自治体サイトの姿」というのは、どのようなイメージですか。

樋渡 広報誌の話で言えば、今の紙媒体は、あまりにも片務的だと思っています。そうではなく、情報を出したら市民からフィードバックが返って来るような形が採れる媒体は、Webサイトしかありません。例えば、ある子育てのサービスについて、使い勝手のコメントとともに星印で判定される。それを踏まえて僕らは、より良いサービスに作り直していく……。多分そんなふうになっていくと思います。

サイトへの評価ではなく、サービスそのものの評価がサイトを通じて行われる、というイメージですか。

樋渡 そうです。ですからサイトでの説明の仕方も分かりやすく工夫しなくてはならないでしょう。関連して言えば、今、自治体が盛んに公開している政策評価は、市民から見て役に立たないとも思っています。どういうことかというと、大量の資料をまとめて見せられて「これはどうですか」と尋ねられても、聞かれた側は分かるわけがないんですよ。施策の良しあしというのは、使った人にしか分からないんです。

携帯サイトについてはどのようにお考えですか。

樋渡 基本的に携帯電話の使われ方は「アミューズメント」だと思っています。また、機能面でもパソコンと比べて制約がある。光ファイバーの回線とかが普及してくれば、携帯ユーザーもパソコンを使うと思いますよ。市のサイトでの情報発信はパソコン主体でいきたいと考えています。

 それと、都会の場合は家が狭くてパソコンが置けないという制約条件もあるのではないでしょうか。そうした社会的制約の中でのセカンドチョイスとして携帯があると認識しています。武雄は(一般的に)家も広いし、パソコンと携帯両方でネットにつないでいる人も、どちらかというとパソコンで情報を取りにいくのではないかと思います。僕はパソコンも携帯もヘビーユーザーですが、(ネット接続は)やはりパソコンの方がメインです。

「市長ブログ」から職員に間接的メッセージ

市長自身はブログで日々情報を発信しています。市役所の職員も読者として想定していると書いていました。ブログでの情報発信には様々な狙いがあると思いますが、職員の方々へはブログを通じてどのようなメッセージを発していこうと考えていますか。

樋渡 僕は「メールで業務命令をする」というスタイルが好きじゃないんです。(ラインを経由せずに)いきなり若手職員に「これをやってくれ」というようなことはしません。そういう部分では、僕の仕事の進め方はオールドスタイルなんです。けれど、「(職員に)こうやってほしいな」というのはあるわけです。例えばブログで本を褒めたら、その本を読んでほしい、ということなんです。

 それと、メールの場合、例えば夜中にいきなり市長からメールが来たら、職員からすると「また何か怒られるんじゃないか」とか、ドキッとしますよね。でも、ブログは見たい時に見ることができます。機嫌が悪い時に僕のブログなんか見なくていいんです。「市長は何をどう考えてるのかな」と前向きな気持ちになった時に見てくれればいいと思っています。

ブログの効果は出ていますか。

樋渡 出ていると思います。例えばまちづくり部では、僕が「巣鴨の商店街がいい」と書いたら、「これ(市長ブログ)だけでは参考にならない」ということで担当職員が自分たちで巣鴨に視察に行ったりしています。あるいは、これは業務と直接的な関係はないのですが、僕が『超・美術館革命』という金沢21世紀美術館についての本に感銘を受けたことを書いたら、「ブログに出ていたので」ということで市民病院の看護師さんが読んでいたりとか、そうしたことがありました。あまねくすべての職員に届いているかと言われればそんなことはないと思いますが、一定の効果は上がっていると思います。