【後編】独自技術で通信最適化,業務アプリを低遅延にする

>>前編

料金体系が公表されていないので,活用イメージが見えてこない。大手企業だけを相手にしているのか。

 そうではない。日本の顧客は150社ほどだが,月額数万円の料金でサービス提供しているケースもある。

 特徴的なのは,日比谷花壇や明治製菓のように,特定の時期だけ集中して使ってもらうユーザーがあること。こうした企業の情報システム担当者は,母の日がある5月やバレンタインデーがある2月は,Webサーバーへのアクセスが急増するので眠られない状態が続いていたと聞く。このように,あらかじめアクセスが急増することがわかっている期間だけ当社のサービスを使ってもらうケースもある。

最近は,コンテンツ配信とは別の用途として「アプリケーション配信」という言葉が聞かれるようになっている。

小俣 修一(こまた・しゅういち)氏
撮影:丸毛 透

 当社でも2005年当たりからアプリケーション配信に力を入れている。従来のCDNサービスほどの売り上げはないが,事業は確実にアプリケーション配信に向かっている。

 インターネットが使われだしたころは,セッション管理の問題などがあったため,「業務アプリケーションで使えるのか」という疑問があったかもしれない。今は違う。SaaSをはじめとして,インターネット越しで業務アプリケーションを利用することが当たり前になってきている。ただし実際に使うとなると,遅延が大きくなってタイムアウトするケースが出てくる。アプリケーション配信ではこうした問題に対処しなければならない。具体的には,キャッシュ・サービスにキープ・アライブなどのTCP最適化や,Webのオブジェクトをエッジ側のアカマイ・サーバーが一括取得してクライアントに渡すといった仕組みを合わせ技で使う。例えば米シトリックス・システムズのシン・クライアントなら,独自にデータを最適化する仕組みを活用する。

 インターネットの中継遅延を短くする手法としては,WAN高速化装置を両側に設置するというソリューションもあるが,アカマイのサービスを使えば,手間と時間を節約できる。

大量のアクセスをさばきたいユーザーもいれば,低遅延のアプリケーション通信環境を手に入れたいユーザーもいる。どうやって対応しているのか。

 アカマイの根幹となる技術に,エンドユーザーの一番近く,あるいはサーバー側に一番近いアカマイ・サーバーを割り出す「マッピング」技術がある。どのアカマイ・サーバーが最適な配信サーバーになるのかを割り出す技術だ。そして,このマッピングを実行する際に用いる「マップ」に秘密がある。マップにはそれぞれ特徴があり,料金も別々になっているのだ。

 可用性だけがあがるマップもあれば,遅延を短くすることに特化したマップもある。低遅延で可用性が高く,パフォーマンスも高いマップもあるが,これを使うとなると料金も高くなる。言ってみれば,飛行機のファースト・クラスのサービスのようなものだ。このようにマップはいろいろあるが,これらはユーザーのニーズに応じて作るので,料金表はない。

コンテンツ配信やアプリケーション通信を低遅延にすることのほかに,アカマイを使うメリットはあるか。

 DDoS(分散型サービス妨害)攻撃の対策になる。すべてのアカマイ・サーバーを倒さない限り,オリジナルのサーバーに到達できないからだ。大量のDDoS攻撃を受ける可能性のある企業の中には,アカマイのサービスを使ってパッチなどを配信する企業もある。

 それからBCP(事業継続計画)やディザスタ・リカバリのソリューションとしても注目されている。いくつかの企業は複数のデータ・センターにサーバーを用意して,何かあっても運用を続けられるようにしている。このシステムに対して,アカマイがそれらをスイッチする役割を担うわけだ。

 新しい用途としては,コンテンツの加工処理がある。PC,携帯,ゲーム機,テレビなどの配信端末ごとに適した形にコンテンツを加工して配信してほしいという要望が寄せられている。

 エッジ側にあるアカマイ・サーバーには,TomcatとWebSphere(いずれもWebアプリケーション・サーバー)のエンジンを積んである。ストレージ環境もあるので,配信データを格納しておくことができる。実際,iTunes Storeから入手できる何億曲という曲は,アカマイのネット・ストレージから配信している。

アカマイ 代表取締役社長
小俣 修一(こまた・しゅういち)氏
1954年生まれ。コンパックコンピュータ(ヒューレット・パッカードが買収)のコンピュータ営業推進本部長,NTTソフトウェアの営業統括部長,日本BEAシステムズの取締役営業本部長,マクロメディア(アドビシステムズが買収)の常務取締役などを経て,2005年12月にアカマイの代表取締役社長に就任した。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年10月11日)