若手社員の離職率の高さや優秀な中堅社員の流動化が問題視される中で、人事組織の強さを表す「エンゲージメント」というキーワードが注目されている。「この会社にいれば自分のありたい姿に向かって成長できる。しかも、自己実現のための努力は会社のビジョン実現に貢献できる」と思う社員が多い状態を、エンゲージメントが高いと表現する。こう考える社員が増えれば自然と離職率は下がり、業績が向上する組織を作りやすい。

 このエンゲージメントに関する調査やコンサルティングを展開する米ギャラップ・オーガニゼーションのジム・クリフトンCEO(最高経営責任者)が来日した。同社は米ザ・リッツ・カールトン・ホテルやトヨタ自動車米国法人などをクライアントに持つ。『まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーはここが違う』(日本経済新聞出版社)といった本を共著で出しているクリフトンCEOに話を聞いた。

聞き手:西 雄大=日経情報ストラテジー


米リッツ・カールトン、トヨタ米国法人などを指導するコンサルタントが提言

25年間で100万人以上を調査したそうだが、どのようなことが見えてきたのか

米ギャラップ・オーガニゼーションのジム・クリフトンCEO
米ギャラップ・オーガニゼーションのジム・クリフトンCEO

 マネジャー(管理職)の質の善しあしは業績に大きな影響を及ぼすということだ。我々が25年かけて100万人に調査した結果、業績が悪化する要因は社員が一生懸命働いていないことではないことが論理的に証明できた。

 出来の悪いマネジャーがいると、優秀な社員はやる気をなくしてしまい、退職のきっかけさえも作ってしまう。優秀な人材の流出を招き、知らず知らずのうちに会社の業績も悪くなる。この事態に経営者は、気付かないことがほとんどだ。エンゲージメントは、まだまだほんの一部の企業だけが、一生懸命に取り組んでいる。

 当社の顧客であるザ・リッツ・カールトン・ホテルは、マネジャーの意識改革で成功した企業の代表例だ。優れた才能のマネジャーを見つけ出すことに長い時間を費やした。社員のエンゲージメントが高まったのは、マネジャーの意識が変わった時だった。

エンゲージメントを高めるにはどうすれば良いのか

 まずマネジャーの間で、社員のエンゲージメントを測定する質問から導いた得点を比較する。得点の低かったマネジャーは、高得点のマネジャーに対してなぜ高いのかを質問して、マネジメントのやり方を見直す。ほかのマネジャーと比べて何が悪くて、改善すべきなのか気付いて自分の行動を変えなければならない。

 我々は、米国トヨタの1万人のマネジャーの育成も担当してきた。マネジャーの意識を変えるには、育成方法から見直なければならない。これまで、間違ったやり方で訓練を受けていたように思う。社員の弱いところを改善するのではなく、強みを探して伸ばそうという発想の転換が必要になるのだ。

 世界のトップクラスの企業ではエンゲージメントされた社員が6割を占めるが、一般的な企業では25%に過ぎず55%の社員がエンゲージメントされていない。

 米国の家電量販チェーンであるベスト・バイは、25%から60%近くにまでエンゲージメントを高めることができた。このようにエンゲージメントされた社員を倍増させるには、経験上、4~5年間はかかる。

日本企業のエンゲージメントについてどう考えているか

 日本企業が作り出す製品の品質は最高水準にあるが、マネジメント面、特にエンゲージメントへの取り組みについては非常に遅れていると思う。エンゲージメントは経営が健全な会社ほど早く身につく。日本企業が本気で取り組めば、早い時期に成果が出るはずだ。