>>前編
人材育成以外では、どういった施策を強化していくのでしょうか。
課題は山積みですが、いまどうしてもやらなければならないのは、ソフトウエアの信頼性をきちんと規定することです。日本ほどソフトでいろいろなものが動いている国はありません。
さらにこの傾向が高まるのであれば、2015年に日本がどうなっているのかを想定し、信頼性の規定を議論しなければなりません。例えば、東京都には「ゆりかもめ」という無人運転の電車がありますが、未来交通の姿の1つといえます。自動運転のシステムが広まったとき、ソフトの信頼性はどうあるべきなのかを考えるべきです。
この5年、10年でソフトによる自動化が進んで、それでも安心な社会にする必要があります。全日本空輸や東京証券取引所で起きたようなシステム障害では、発生したときにすぐに事態を把握でき、何時間以内に何が復旧するかを見通せる国になるべきです。
八尋さんは、自ら検索関連の技術を開発する「情報大航海プロジェクト」を企画し推進されています。進み具合は順調ですか。
私が情報政策課に所属していたときに企画したものですが、情報処理振興課に異動した際にそのまま引き継ぎました。前の課の仕事を続けるのは異例です。企画者として責任は問われ続けますし、成果を出さなければならないと強く感じています。今年度で46億円、3年間で100億円以上の予算をつぎ込むわけですから。
今年4月からスタートし、すでにNTTドコモや日本航空インターナショナルなど10社の提案を採択しました。各社がテーマを持って技術とサービスを開発します。例えば、日本航空インターナショナルは、社内に大量に蓄積した安全に関するレポートや気象データなど各種情報からトラブルの発生原因を分析するシステムを提案しました。
肝心なのは、10社のシステムから共通技術として切り出すことです。この共通技術を一般に公開します。
経産省では過去、「シグマ計画」や「第五世代コンピュータ」など大規模プロジェクトに失敗していますが、その轍を踏まないでしょうか。
写真:新関 雅士 |
第五世代コンピュータのときは、将来の技術を開発する目的でした。情報大航海の場合は、サービスありきの技術開発という違いがあります。つまり、利用の具体像があるのです。
これは、技術の開発に勝った企業が次の世界を作っているわけではない、という教訓に基づいています。例えば、米グーグルと同じような検索技術は、すでに1995年ころに日本の大学や大手ベンダーが持っていました。
しかし、それはユーザー企業のシステムに納入して役割を終えています。ユーザーがどのように活用しているかを分かっていなかった。一方グーグルは、ユーザーが使っている状況を把握したうえで、ビジネス・モデルを構築したわけです。今回採択した10件は、提案者にサービスを提示してもらい、その裏付けとなる技術と一緒に評価しました。
プロジェクトの進め方も、民間の技術を生かしています。第五世代コンピュータをはじめ、これまでの大規模案件は公的な機関がプロジェクトマネジメントを請け負っていました。今回は、プロジェクトマネジメントは日立コンサルティングが請け負います。そのパートナー企業として米スタンフォード・リサーチ・インスティテュートを活用しています。
情報利用に法ありきではない議論を
本来、民間企業がやるべきことを経産省が進める理由は何ですか。
これからの基本技術となる部分が、民間企業から自然に出てこないためです。最初に申し上げたように、人の活力が失われているからです。
しかしポテンシャルは高いと考えています。日本のメーカーにはどこでも中央研究所があり、自然言語処理や映像処理の技術者が大勢います。また、扱う情報に関しても、電子マネーや携帯電話など個人の履歴が貯まっている量は、韓国と日本が飛び抜けています。米国でも、携帯電話と決済が一緒になっているところまできていません。
ただ、技術以外にも検討すべき課題は多くあります。1つには、情報を利用するに当たって、必要な制度を決めなければなりません。著作権や個人情報をどうするか、法律ありきではない議論が必要です。
例えば、メタボリック症候群の人がファミレスでクレジットカードを使った情報を使ってカロリー計算をしたい、となっても今の法体系では難しい。しかしそれが本人にとって価値があるとか、社会全体からもメタボリックの人を減らせるとかを考えると、個人情報の扱いを緩和するのがよいかどうか、議論になります。こういったことが重要だと思っています。
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年9月18日)