ドワンゴ子会社のニワンゴ(東京都中央区)が提供するコメント投稿・表示機能付き動画サービス「ニコニコ動画」の成長が著しい。ネットレイティングス(東京都渋谷区)による、2007年8月度の家庭からのインターネット利用動向に関する調査結果によると、ニコニコ動画の利用者一人あたりの平均訪問回数は動画投稿サイト「YouTube」の5.2回を上回る8.8回。平均利用時間はYouTubeの1時間の3倍強となる3時間14分に達する。今や日本中の注目を浴びているニコニコ動画を提供するニワンゴの取締役西村博之氏に、ニコニコ動画のビジネスモデルや、著作権問題、広告展開の可能性などについて聞いた。

聞き手:原 隆=日経ネットマーケティング,高橋 暁子=フリーライター


YouTubeを滞在時間などで超えたが。

ニワンゴ 取締役 西村博之氏
ニワンゴ 取締役 西村博之氏

 楽しんで使ってくれているユーザーが増えてうれしいですが、ビジネス的には本当は半分の滞在時間で倍のユーザーが集まった方がうれしいんですよね。サービスを始めた初期は、YouTubeの動画にコメントがつけられるようにしていました。ところが、2007年2月にYouTubeにアクセス遮断されてしまい、自社でサーバーを用意してサービスを再開し今に至ります。YouTubeに切られるのがあんなに早いとは思わなかったですね。今は、YouTube は先を走ってくれているので、もっと頑張ってもらいたいです。

ニコニコ動画のコンセプトは。

 ユーザーが楽しめる、ちょっと変わったサービスをやろうと考えて始めました。ほかと同じサービスをやるなら、ニコニコ動画である意義はないと思うのです。

(動画再生中に投稿・表示される)コメントは次々と消えていき、最新の限られた数のものしか表示されないようにしています。技術的な制約という理由もありますが、半分はわざと古いコメントは次々消えていくようにしています。コメントが続くことで文脈が深まっていかないようにという理由です。あまり深まると途中から参加しにくくなってしまい、閉鎖的な世界になってしまいます。コメントを刹那的にすることで、過剰なコミュニケーションが抑えられ、結果的に良い状態になっていると思います。

ニコニコ動画のビジネスモデルは。

 ニコニコ動画のビジネスモデルは、バナー、プレミア会員、アフィリエイト、着メロなどによる収入です。月500円のプレミア会員は10万3000人おり、アフィリエイトは月1000万円強、バナーによる広告収入が月1800万円ほどあります。費用は3カ月で6億円ほどかかっており、売り上げは2億円くらいです。無料も含めた会員数は年内には今から30%増やし、500万人弱までいくと見ています。

 短期的な儲けを考えると無料会員の切り捨て(でバックボーン費用を削減する)という道もありますが、たとえそれでその時だけ黒字化しても、本来の「面白いサービスを提供する」という目的が継続的に続けられるかというと疑問だと思うんです。僕の発言力が、黒字化を目指しているいま、どこまで通用するか分からないですけど(笑)。今は面白いサービスと売り上げの共存を模索している最中です。

 ただ、赤字のままだと、いつまで続けられるか分かりません。なので、良いサービスを提供し続けるためにも、黒字化しないと困るんです。今期中には単月黒字を目指しています。

動画プレイヤーの真上には広告を入れないと明言している。この理由は。

 単に邪魔ということでもあるんですが、広告を載せてもたかが知れていると思うんです。ニコニコ動画全体の広告のクリックレートが下がるだけですからね。こうした広告枠の設定は売り上げが10%伸びるかもしれない。黒字化して成長が安定基調になっていればそれもいいんでしょうが、何より今は失敗するかもしれないけどホームランを狙わなくてはならない(笑)

費用を下げるために、P2P技術を動画配信に使ってはどうか。

 技術的には注目しています。P2Pにするとサーバー負荷などの面で助かって良さそうなのですが、動画がちゃんと再生されるかどうか保証されませんよね。もしうまく動けば理想的なモデルだと思いますが、見られることがあるサービスといつも見られるサービスとは違うと思うんですよ。人気のある動画に対してアクセスが集中しすぎて見られない時に使うということはあるかもしれません。