マイクロソフトは新しい広告手法として、娯楽コンテンツを通じて消費者に広告主のブランドメッセージを伝える「BEET(ブランデッドエンターテインメントエクスペリエンスチーム)」に注力している。米国などでは5年前に始めたが、日本でも本格的に展開し始めた。米マイクロソフトでBEETを手がけるマイクロソフト・デジタル・アドバタイジング・ソリーションズ(MDAS)部門ブランデッドエンターテインメント ディレクターのクリス・ベラスコ氏と、グローバルマーケティング部門リサーチディレクターのスティーブン・キム氏にその背景と最新事例を聞いた。

聞き手:杉本 昭彦=日経ネットマーケティング


米マイクロソフト クリス・ベラスコ氏

マイクロソフトはなぜ、BEETに投資をしているのか。

米マイクロソフト クリス・ベラスコ氏
米マイクロソフト クリス・ベラスコ氏

 マイクロソフトはBEETの本拠地を、世界中で広告代理店が最も多いロンドンに置いています。BEETの狙いは、新しい広告体験を作ること。代理店やブランドを持つ広告主がネット上で革新的な手法を用いて、消費者とブランドとの関係を構築することを支援します。BEETに取り組み始めて5年がたちました。ノキア、P&Gなど世界で有数の広告主と仕事をしてきました。彼らは、常に革新的な広告手法を探しています。それを提供するのが私たちの仕事です。

具体的にどんな取り組みをしてきたのか。

 例としてノキアのキャンペーンを説明しましょう。ノキアの要望は「音楽で人々を結び付けたい」というものでした。具体的には2006年の大みそか、世界5カ所で開かれるコンサートを通じて人々を結び付けたいというものでした。

 そこで我々は、5カ国語のWebサイトを構築しました。大みそかに世界中の消費者にWebサイトにアクセスするよう呼びかけ、コンサートの映像を流しました。その結果、24時間で70万人が視聴しました。2007年3月末まで配信して、最終的には500万人が視聴しました。

 同時に、消費者にキャンペーンサイト作りに参加してもらいました。マイクロソフトのデジタル地図プラットフォームを活用して、消費者に大みそかの写真や動画を投稿してもらいました。個人的な関心を世界の人々と共有できたわけです。対応した5カ国語には入っていませんでしたが、日本などからも投稿が寄せられました。ノキアのメッセージ「コネクティング・ピープル」がここで具現化されました。これこそネットの力を活用したブランド作りです。

「MSN」、「Windows Live」など自社Webサイトはどう利用したのか。

 もちろん、MSNのホームページや様々なコンテンツを通じて、キャンペーンを告知しました。ブラジルでは、「Windows Live Messenger」を通じてキャンペーンの情報を提供しました。ブラジルのネット利用者の85%が同メッセンジャーを使っているのです。

 香港では第3世代携帯電話向けに動画を配信しました。コンサート開始までの時間をカウントダウンする時計を表示した屋外広告も利用しました。オンライン、オフラインだろうと、消費者に適切なメディアでアクセスすることが重要です。

新聞やテレビなどのメディアは使わなかったのか。

 ノキアがほかの代理店を通じて活用しました。ただ、それらもネットに誘導する役割を果たすものでした。

効果はどのように測定したのか。

 まず広告主や広告代理店とともに、一体何が成功なのかを決めます。それを決めて、調査、測定します。例えば、Webサイトのアクセス解析です。動画視聴回数、利用人数、利用時間などを測定できます。また、消費者がキャンペーンに接触したことで、ブランド意識にどれくらい影響があったかも調査できます。特にエンゲージメント(消費者との絆の深さ)を計るうえでは、サイトの利用時間(利用者数×1人当たりの平均利用時間)を重視しています。ノキアでは、90 日間で25万時間ありました。

これから日本でもBEETに力を入れていくとのことだが、なぜ今か。

 世界的に、こうした高付加価値のサービスを広告主に提供するのにふさわしい時期だからです。ブランドを持つ広告主は革新的な手段を使い、消費者にアクセスしたいと考えています。そのなかで、デジタルメディアの重要性は日に日に高まっています。広告主はデジタルメディアへの投資なしには、消費者にアクセスすることが困難になりつつあるのです。

広告予算はどれくらいかかるのか。

 様々です。ただ、デジタルメディアでは、非常に限られた層に向けてキャンペーンをすることも可能なのが特徴です。