オンラインサービス事業部の笹本氏(左)と小野田氏(右)
オンラインサービス事業部の笹本氏(左)と小野田氏(右)
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 マイクロソフトは2007年11月8日、オンライン事業「Windows Live」を構成する複数のサービスを正式に公開した。今回の発表の意義や競合に対する優位性、デスクトップのソフトウエアとサービスとを融合させる「ソフトウエア+サービス」戦略の目指すものなどについて、同社のオンラインサービス事業部の笹本裕事業部長と、Windows Liveチームを率いる小野田哲也ディレクターに聞いた。

■今このタイミングで、多数のサービスを同時にリリースした背景、意義は。

笹本氏: まず、発売から1年ほどが経過したWindows Vistaを“再強化”する意味がある。Windows Vistaは、表現力の豊かさなど、Windows XPとは異なる優れたOSだ。ただ、それがまだ十分に認知されていない面がある。Windows Liveは、Vistaの良さを知ってもらう上で重要な要素になるのではないかと考えている。

 また今日は、複数の企業とのパートナーシップを発表した。マイクロソフト1社だけでなく、こうしたパートナーを通じてユーザーを獲得し、ユーザーとのきずなを築いていく。それが、広告ビジネスの事業強化につながっていくだろう。米国で既に展開している広告配信プラットフォーム「adCenter」や、先日買収した米広告大手のアクアンティブの成果なども、いずれ日本に導入していく。

■オンラインサービス分野では、グーグルやヤフーなどに先行を許しているとも見える。その原因をどう分析するか。また、どのように盛り返していくか。

笹本氏: グーグルは、検索においては先行している。だが我々が今回発表したようなWindows Liveのサービス群に目を向けると、必ずしもそうではない。グーグルも同じようなサービスは手がけているが、本当にベーシック、シンプルなものだ。

 我々とグーグルには、リッチとシンプル、という違いがあると思う。グーグルのシンプルさを好むユーザーもいるだろう。だが我々は、リッチな体験をしてもらえるようなサービスを展開することで、ユーザーのデジタルライフを充実させたいと考えている。

 リッチであることは、広告面でも強みになる。今後いろいろなメディアがデジタル化されていく中で、広告主はよりリッチな環境を求めるようになってくる。例えばブランディング広告を展開したい、といった場合などが考えられる。我々は、リッチな体験をしてもらえる環境を提供することが、ブランディング広告の収入源を増やすことにつながると考えている。

 今後は、アクアンティブのターゲティング広告の仕組みも活用していく。そして今日発表した、Windows Liveの正式版がある。検索エンジンも強化しており、グーグルに匹敵するレリバンシー(キーワードに対する検索結果の関連の高さ)も実現している。これから、我々が本領を発揮できる時代になるのではないか。

小野田氏: ヤフーとの比較でいえば、IDの多さが強みだ。我々はヤフーとは異なり、ISPでもなく、携帯電話事業者でもない。「Yahoo!メール」は多数のユーザーを抱えるサービスだが、その多くが「Yahoo!BB」のユーザーだ。純粋なWebメールのユーザー数で比較すれば、「Windows Live Hotmail」の方が多い。

 我々が通信事業を手がけていないことは、パートナーシップを組む上でもとても重要だ。本日発表したようなNTT東日本やNTTコミュニケーションズをはじめ、さまざまなパートナーと協業してユーザーを増やしていける。

■マイクロソフトは「ソフトウエア+サービス」戦略を掲げる。Windows Liveというオンラインサービスから見て、デスクトップのソフトウエアにはどんな価値があるか。

小野田氏: デスクトップのソフトウエアには、「オフラインでも使える」「安心感がある」といった利点がある。これは特に携帯電話で顕著だ。日本では地下鉄に乗っていると通信が途切れるので、「オフラインの時に使えるアプリ」が人気を集める。常にネットワークにつながっていないと動かないアプリの方が、つながっていなくても動くアプリより優れている、ということは、明らかにない。多くの日本人はそれを理解している。

 また現状ではオンラインサービスといえばWebアプリケーション、と考えられがちだが、すべてがWebアプリだけで済むわけではない。パソコンのCPUリソースを使わなければ絶対に動かないものは確実に存在している。ブラウザーでできることには、しょせん限界があるのだ。

 Windows Liveでは、Webアプリケーション以上のものを提供している。例えば「Windows Live フォトギャラリー」。これで画像を加工するような作業は、ネットワーク経由では絶対にできない。

 ソニー・コンピュータエンタテインメントの久夛良木氏と話す機会があったのだが、久夛良木氏も同じことを言っていた。光は1メートル動くのに5ナノ秒ほどかかる。これに対して、今のCPUは1クロックが1ナノ秒以下だ。1ナノ秒の間にデータを処理しなければならないのに、データが1メートル先にあるのでは間に合わない。近くにデータがなければならないことは、とてもたくさんあるのだ。

■米国では、SNSを手がけるフェースブックに出資した。国内にも有力なSNSサービスはあるが、これらとの提携などは視野に入れているか。

笹本氏: パートナーシップとしては検討したいし、先方にも検討してほしい。SNSのユーザーなら、Windows Liveのサービスをとても有益に使ってもらえるはずだ。例えば、間もなく提供予定の無償のストレージサービス「Windows Live SkyDrive」を使って画像を保存、共有したいといったニーズは増えてくるだろう。

 日本には、日本独自のSNS市場もある。これを理解した上で、Windows Liveの製品群とのシナジーが作り出せればよいと考えている。