技術者向けに部品や材料、製造/試験装置などの情報を集めたポータル・サイトを運営するイプロス(東京都港区)。2007年9月現在で17万人のエンジニアが利用登録している無料情報サイトで、約8000社のメーカーが商品情報を掲載しているという。

 あまり一般には知られていない同社だが、制御機器大手のキーエンスが100%出資している子会社で、キーエンスの競合会社の商品情報も分け隔てなく掲載していると聞けば、驚く人は多いだろう。キーエンスがなぜこうした事業に参入したのか、今後の事業展開などをイプロスの岡田登志夫社長に聞いた。

(聞き手は島津 忠承=日経情報ストラテジー)

なぜキーエンスが商品情報のポータル・サイトを立ち上げたのか。

キーエンスの社内ベンチャーからイプロスを立ち上げた岡田登志夫社長
キーエンスの社内ベンチャーからイプロスを立ち上げた岡田登志夫社長

 イプロスを起こす以前、私(岡田氏)はエンジニアとしてキーエンスに入社しその後、事業企画を担当していた。もともとは技術者のマッチングを事業にできないかという発想から検討していた。その後、紙でなくネットで中立的に技術情報を集めて広告料で運営する事業で社内ベンチャーの審査を受け2000年に発足した。ちょうどネットバブル崩壊が始まっていたが、製造業を熟知している自分たちなら立ち上げられると思った。

 ただし、キーエンスの子会社だということが事業の障害になりかねないと懸念した。そこで、2~3年前まではキーエンスの情報は一切サイトには掲載しなかった。キーエンスの販促媒体や、顧客を囲い込む活動だといわれないようにするためだ。キーエンスの取引先に優先的に声をかけるといったことも全くしなかった。実際に、キーエンスの競合会社の製品はたくさん掲載している。従業員の交流もほとんどなく、キーエンス本社は単なる株主という関係だ。

 発足当時は、業界新聞社やソフトバンクがやはり技術者向け商品情報のサイトを作って競合していたが、他社は徐々に撤退して当社が生き残った。情報の深さにこだわるよりも、きっかけ作りのサイトと割り切ってまずは利用登録者や出展社を増やそうと注力したことと、3年目までたった4人で頑張ったことが勝ち残る結果につながったのだと思う。製品情報が充実してきたと利用者から認めてもらえるようになるまで3年間かかった。

どのようなビジネスモデルなのか

 広告収入で回しており、集客力だけを売り物にしている。製品情報を登録するだけなら無料で、サイトのトップに情報を載せて目立たせたり、あるいは、メールマガジンに掲載したりする時に広告料がかかる仕組みだ。

 製品販売業務に進出することは全く考えていない。製造関連の商材は商談が数カ月から1年以上にも及ぶことがあり、これを当社でフォローするのは無理だ。通販サイトも当社の顧客になっている。

現在の業績は

 9月現在で17万人の利用登録者がおり全員が技術者だ。今期(2008年3月期)の売上高は前年度比40%増の6億円を見込んでいる。掲載商品に対する資料請求は1カ月当たり1万3000件ほどある。

 2007年度末に会員は20万人にする目標だ。1カ月に3000人以上のペースで増えている。

書籍販売大手のアマゾンのように、推奨商品を表示するといったサイトの機能強化は考えていないのか

 検討はしているが、B to Bの場合は、何を求めているのか予測するのが難しい。技術情報をセグメンテーションして情報を得たい人とそうでない人がいる。例えば、半導体製造装置に使うコーティング技術を登録したら、食品業界から引き合いが来てびっくりしたという話を聞いた。食品を焼く時に臭いがつかない焼き道具に応用したいという引き合いだったという。

 あるいは、自動車業界の品質管理担当者向けに顕微鏡を登録したら、医療関係者から引き合いが来たといった話もある。
 建築家や医療関係者も当社サイトに登録して情報を得ている。あまり運営者側で垣根は作らないほうが良いのかなと思う。

登録会員である技術者同士の交流は活性化させるのか

 技術者の担当領域と少し違う分野の技術を誰かに教えてほしいというニーズが高まっている。おそらく1人ひとりの担当技術領域が狭まってきているのだろう。そこで、掲示板でQ&Aコミュニティーを作ってみたところだ。

 ただ、公開掲示板で質問をするという行為は、企業の秘密保持に抵触しかねないという利用者の意見もある。大学の関係者などに回答者になってもらって非公開でやり取りするといった形態も検討中だ。定年退職した団塊世代の技術者に講師役を頼む可能性もある。

 mixi(ミクシィ)のように登録者全員が自己紹介ページを持って交流するようなオープンなやり方は、あまり考えていない。友達を作るといった利用方法が活性化すると、サイトの趣旨がぼやけてしまうからだ。あくまで「ものづくりのための交流」という方向性に沿ってコミュニティーを企画したい。

今後の事業目標は

 5年後に登録者数100万人を目指したい。国内の技術者は1000万人程度といわれており、その約1割を押さえる勘定になる。製品情報の出展社は3万社くらいに伸びるだろう。既に中国や韓国のメーカーも情報を掲載しており、海外の出展社や利用者も今後は開拓したいと考えている。

 そのころには売上高は数十億円規模になるだろう。広告だけではなくて、エンジニアを対象にした市場調査なども収入源にしたい。