シンガポールテレコム(シングテル)の日本法人であるシンガポールテレコム・ジャパン。同社はトヨタ自動車のアジア地域の拠点ネットワークを受注するなど,着実に日本企業への認知度を高めてきた。「シングテルの存在感を日本市場でさらに高める必要がある」と意気込む日本法人の川井啓由社長に,今後の取り組みを聞いた。

(聞き手は宗像 誠之=日経コミュニケーション



最近,日本市場におけるプロモーションを積極化しているようだが。


シンガポールテレコム・ジャパンの川井啓由社長
 メーカーなど,昔から国際ネットワークを構築している企業ユーザーには,シンガポールテレコムの名が通っていると考えている。例えば,トヨタ自動車のアジア地域における国際ネットワークは,シンガポールテレコムのサービスを使っている。

 しかし企業ユーザー全般では,まだシングテルの知名度が低い。これまでは海外展開に積極的なメーカーなど大手企業だけをターゲットとしていたが,収益機会を増やすためにもう少し裾野を広げたい。従業員100~500人くらいの中堅企業も積極的にターゲットにしていきたいと考えている。

 中堅企業だと,国際ネットワークを作るとき,NTTコミュニケーションズ(NTTコム),KDDI,ソフトバンクテレコムの3社を検討して,そのいずれかに決めてしまうケースが多いようだ。シングテルも併せて検討してもらえるように知名度を上げたい。

 これまではアピール不足だっただけで,勝算はある。例えばシングテル日本法人のWebサイトを日本のユーザーが分かりやすいようにリニューアルしただけで,問い合わせが増え,営業機会も実際に増えた。アジア地域のネットワーク構築が重要だと考えているユーザーが増えているのは間違いなく,我が社の需要は必ずある。

シングテルのアピール・ポイントは。

 主に4点ある。一つは,複数ルートの海底ケーブルに投資していることだ。海底ケーブルのルートをいくつも持っているということは,国際ネットワークでの冗長化を取りやすい。シングテルはアジア地域の8割の海底ケーブルに投資しており,回線容量やルート設計など,企業の要望に応じて柔軟に対応できる。

 二つめは,海外拠点やノードの多さだ。世界中で19カ国・地域,37カ所に拠点を展開中で,特にアジアの拠点数は,他国の通信事業者に比べて群を抜いている。国際ネットワークを構築する際に海底ケーブルよりも重要なのは,各国のアクセス回線部分だ。その国の言語で商談し,ローカルの通信事業者を使う必要がある。その際のサポートまでできることが大きな強みだ。

 三つめが,海外の通信事業者との提携戦略に積極的である点だ。特に,ローミングのために携帯電話事業者との提携を進めている。その際,資本参加までしているケースもあるため,法人向けのモバイル・ソリューションなどを提供しやすい。実は,投資先を含めると,シングテルの携帯電話ユーザーは1億3000万に上る。日本最大手であるNTTドコモの2倍以上だ。

 四つめは,これらの強みを一括して提供できること。海底ケーブルやアクセス回線の調達,携帯電話までを,シングテルがワンストップで提供可能となる。

シングテルのグローバル戦略の中で,日本市場はどう位置付けられているのか。

 日本市場は,マーケットとして大きく,日系企業は重要な顧客と認識している。シングテルの売り上げの中で,日本市場の売上高はシンガポールを除くと上から3番目くらいの規模だ。1位はダントツでインド。2位は米国,3位が日本で,香港とほぼ同レベルの規模となっている。

 具体的な数字は言えないが,今後3年間で,日本法人の売上高の倍増を狙いたい。

アジア地域で競合する日本の通信事業者はどこか。

 NTTコムが強い。約9割の案件で競合しているのではないか。

 NTTグループが国際通信に参入してきてから,日本の通信事業者の海外戦略の雰囲気が変わったように思える。特にNTTコムが積極的に営業しており,「なんでもやります」といった雰囲気で顧客を獲得している。こうした営業は,日本ユーザーには使いやすいと思われるようだ。

 しかし,地政学的にはアジア地域でのシングテルは有利だ。日本の多国籍企業は,日本,北米,欧州,アジアと,世界を4地域に分けて戦略を考える傾向がある。シングテルはアジアの中心に位置しているだけでなく,インドに複数の拠点があるなど,他の通信事業者よりもアジア地域の拠点数は充実している。ネットワーク・オペレーションの能力も評価されているので,こうした点を訴求しながら,日本のキャリアと戦っていく。